となると、目下の問題は、赤根先輩ですね。

 赤根先輩は伸也先輩にきつい言い方をされて傷ついているはずです。

「お前の部活じゃないんだから、お節介は程々にしろよ」

 くまくんの忠告に、わかっています、と返します。

 暇なことに変わりありませんから、お節介を一つくらい焼いてもいいじゃないですか。

 それに恋ばな。JKの華ですよ。

「……お前のJKライフには干渉しないし、赤根とか言うやつのところで突然俺を顕現させるなよ」

 そんなことするわけないじゃないですかー。というか、霊力だいぶ回復してきたんですね。

「……まぁな」

 何故かくまくんの顔が翳りましたが、今はJKの華、恋ばな目掛けてまっしぐらです。

 私に想い人なんていませんがね!


 人通りのない校舎裏に赤根先輩はいました。もう帰り支度もばっちりで、帰る気しかないように見えるのに、赤根先輩は隅っこに踞ったまま、動きません。

「赤根先輩?」

「あなたは確か……手芸調理部の日隈さん。衣装作りはどうしたんですか」

「先輩方の手並みがよくて。任せて来ちゃいました」

「奔放ね……伸也みたい」

「伸也先輩ですか?」

 さりげなく隣に座ります。赤根先輩は顔をこちらに向けようとしません。

「ん……だから、あなたとなら、伸也は釣り合うんでしょうね」

「釣り合う?」

「読み合わせ。聞いたわ」

 あちゃー、あれを聞いては複雑な心境になってしまったでしょう。私の能力云々は別にして、伸也先輩のみならず、部員の皆さんからもウケがよかったものですから。

「あの場所には私よりあなたが向いてると思う。きっと、"伸也の隣"っていう場所も」

「何言ってるんですか? 先輩」

 私はむくれてみせます。先輩の悄気た頬っぺたをつつきながら言いました。

「私みたいな雑兵が出てきたくらいで挫けるほど、先輩の想いは薄いんですか?」

 赤根先輩はぴく、と反応はしましたが、答えませんでした。

 私は続けます。

「呉服副部長から聞きました。小学校の頃から、伸也先輩と赤根先輩は演劇をやっている、と。中学に入って、演劇部に入った伸也先輩を追いかけて、演劇部に転部した、と。赤根先輩は、伸也先輩を追いかけていたんじゃないんですか? 高校に入ってからは伸也先輩はきっと演劇部に入るからって、演劇部に決めたんじゃないんですか?」

「そんなこと、日隈さんには関係ないでしょう?」

「私、呉服副部長から聞きました」

 話を打ち切ろうとするのを遮って、私は言い切ります。

「赤根先輩は伸也先輩のことが好きだって。本当は赤根先輩が大根役者じゃないってことも聞きました。赤根先輩が上手くできないのは、伸也先輩が傍にいるからで……想っている人が傍にいるだけでどきどきして、平常心ではいられない、なんて、とっても素敵なことじゃないですか」

「日隈さん……?」

「恋愛なんてしたことないので偉そうなことばかり言ってられませんが、恋してるから赤根先輩は綺麗で人気者なんじゃないですか? そういう一途なところが、きっとみんなに伝わって、先輩は人気者なんです。

 でも、赤根先輩はクラスの人気者である以前に、赤根先輩なんです。誰に後ろ指指されたとしても、赤根先輩が赤根先輩の好きな人に好きって伝えるのは、いいことだと思います」

 すると、赤根先輩はぼっと頬を真っ赤に染めます。わかりやすい人ですね。

「好きって……? 伸也に?」

「振られたって、好きなことは変わらないはずです。抱えたまま、才能を塞き止めるような想いなら、こう、ぱーっとぶちまけてやればいいのです!」

 そうしたら、吹っ切れるんじゃないですか? と私は首を傾げます。

 赤根先輩は、そっか、と呟きました。

「ありがとう。やってみるよ」

 翌日の放課後、頼もう、と部室の扉を開けて、やってきた赤根先輩に一同はぽかんとし、赤根先輩が「借りてくね」と伸也先輩を引きずっていきました。

 数分後、二人が帰ってきます。何があったかはわかりませんが、赤根先輩の表情は随分とすっきりしていたと思います。

 私はこっそり赤根先輩に訊ねました。

「赤根先輩がショタコンなのって、もしかして伸也先輩が童顔だからですか?」

「え? 素だよ?」

「えっ」

「えっ」


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