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結局、貴船さんの案があまりにも具体的すぎて他の方々がぐうの音も出なくなり、お化け屋敷という案に決定になりました。
というわけで、貴船さんは早速、花巻部長に促されて、悪魔の構図を描いています。
まだ途中なのですが、明らかに貴船さんが描いているのは、くまくんに外なりません。っていうか、貴船さんの画力が半端ないです。
まあ、くまのぬいぐるみを血涙仕様にアレンジできるくらいの才能を持った人です。普通にその実力を使えば、普通の手先が器用な人なのでしょう。それ故に、手芸調理部に所属しているのでしょうし。
ただ、一緒に見ていた先輩が、構図ができていくにつれて、こんなことをぽつりと呟きます。
「あれ、これ一時期話題になったショータくんに似てない?」
ぎくり、と私が固まるところに、冴木さんが止めを刺します。
「なんだか、いつぞや来たくまちゃんの従弟くんに似てない?」
「そ、そうかな」
私は内心汗だくです。くまくんはあのとき、自分の姿から角と蝙蝠羽を消しただけですから、容姿は悪魔の姿とさして変わりないのです。
私は笑って誤魔化して、冴木さんのコメントをスルーしました。貴船さんは黙々と描き続けています。
一抹の不安を覚えました。貴船さんにくまくんを顕現するよう頼まれたらどうしよう、と。くまくんはまだ私に見えるまでは復活しておらず、顕現は不可能なのですが、これを期に私が悪魔召喚に成功していることがバレたら、私のJK生活は終わりのような気がします。霊感少女なんて、お呼びじゃないでしょう。
貴船さんは受け入れてくれましたが、他の方々がそうだとは限りません。もしかしたら、霊感をネタに小中学生のときのように弄ってくる人も出るかもしれません。そんなのは御免です。
部員さんが貴船さんの画力に見惚れる中、さすがは部長というか、花巻先輩は部活の話を進めました。
「役の振り分けだが、演劇部の方には一年の日隈と二年生二人、三年生二人に行ってもらおうと考えています」
「部長、なんで日隈さんなんですか?」
それはごもっともです。私でも選ばれた理由はわかりません。演劇部からの依頼なので、下手な人選ができないのはわかります。不器用な冴木さんなんかを送るわけにはいかないでしょう。
花巻部長は毅然と続けました。
「今後も演劇部からの依頼を受けることがあるだろうから、一年に指導をする必要がある。一年の中で一番手先が器用なのは貴船だが、貴船はお化け屋敷企画の言い出しっぺで、主核を担うことになるでしょう。故に、次に器用な日隈に任命します。
それと、私は部長ですから、お化け屋敷企画の指揮を執る必要があるので、演劇部の衣装作りには参加できません。あとの人選は副部長に一任します」
妥当な判断です。一任された副部長さんは戸惑いながらも、衣装組を人選していきます。
私は人数の少ない衣装組に人選されて、内心ほっとしました。これなら、交流がすくなくて済みますし、貴船さんにくまくんのことで弄られることもないでしょう。
「そうと決まれば、衣装組は演劇部に打ち合わせに行くように。くまのぬいぐるみの材料は、買い出し班四人、人数分を買ってくるように。以上、各自動いてください」
花巻部長はてきぱきと的確な指示を出していきます。さすが部長。
私は先輩方の案内で演劇部に向かいました。
そこでひっそりとくまくんが声をかけてきます。
「お前、お化け屋敷の方じゃなくてよかったのか?」
くまくんの指摘はもっともです。
"あくまのぬいぐるみ"について、一番知っているのは間違いなく、私です。実際悪魔のくまくんにも会っていますし、貴船さんより確実にくまくんの姿を見ています。
ですが。
「ここだけの話、私は画伯なのですよ……」
「あー、なるほど」
事実ですが、そう簡単に納得されると私は微妙な気持ちです。
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