た
副部長を筆頭に演劇部応援組に選ばれた五人が演劇部部室へ向かいます。
「失礼します、手芸調理部から応援に来ました」
「あ、ありがとうございますー」
「……あれ? 部長さんは?」
「あそこですー」
緩い感じの受け答えをする演劇部員さんが指を指した先にはどんよりとして頭を抱える部長さんらしい女子生徒の姿が。髪を一房結っていて、全体的にはボブカットくらいのその人は見た目は快活そうに見えそうですが、今纏う雰囲気が異様に暗いです。
うちの副部長さんが、緩い男子部員さんに問います。
「あれはどうしたの?」
「さあ? 勝手に
「あなた副部長でしょう。部長が悩んでいるときは相談に乗るべきです」
なんと、この緩い先輩は演劇部の副部長だったんですね。人は見かけに依らないものです。
それにしても、うちの
けれど、口振りからするに、二人は友人関係なのでしょうか。話し方が親しいように思えます。
「えー、面倒くさいですー」
「面倒くさいという言葉は本来"当たり前"という意味です。ほら、当たり前のように部長に話しかけるのですよ」
「呉服のそういう細部のインテリ感苦手ー」
「四の五の言わずに行きなさい」
わあ、これが完全なツッコミとボケの関係ですね。
「何に感心してんだよ」
あ、こっちのツッコミくんも起動しました。
「俺はツッコミのために存在するわけじゃねぇし!」
まあ、いいじゃないですか、くまくん。
そうくまくんを宥めつつ、動向を見つめます。演劇部の副部長さんは心底面倒くさそうですが、ちゃんと部長さんのところに向かいました。
「部長ー、手芸調理部の応援来ましたよー。いつまでネガティブ全開なんですかー?」
「これはネガティブじゃない。恋患いだ、
あちらの副部長さんは伸也先輩というみたいですね。──って、恋患い!?
私も呆気に取られましたが、呉服先輩も大層驚いたようで、顎が外れるんじゃないかっていうくらい口をあんぐり開けています。
「男泣かせと謳われてきた
男泣かせという赤根先輩の称号が気になるところですが、私の視界の隅にそれより気になるものが映りました。
にたぁっと笑う伸也先輩です。その笑みは獲物を見つけた狩人のように見えました。
「恋患いですかぁ。お相手はどんな方で?」
さっきの緩い間延びした声から、ねっとりした意地の悪そうな声に変わる伸也先輩。これは疑いようもなく、人の色恋沙汰を話のネタにする気ですね。そんなんじゃモテませんよ、と伸也先輩に心の中で言っておきました。
しかし、私はそんな呑気なことを考えている場合ではなかったのです。
赤根先輩がぽそっとこぼしました。
「この前学校に現れた小学生くらいの男の子……」
「出たぁ、雪子さんのショータくん
ん?
なんだか今、聞き捨てならない単語が聞こえたような。
「奇遇だな、俺もそう思った」
くまくんの声に焦りが滲んでいます。もし今彼の姿が見えたなら、顔が青ざめていたかもしれません。
この前学校に現れたショータくんって、心当たりがありすぎて困るんですが。
私たちが冷や汗を掻く中、赤根先輩がその大きな瞳に憂いを宿して語ります。
「あの小学生まで特有の男の子のぱっちりおめめにショータくんの特権、ショートパンツ。癖のある黒髪、うるうるした瞳、眩しい太もも……もう惚れない理由がない……」
んん?
なんか最後だけ変だったような。
伸也先輩は肩を竦めます。
「これ、世の雪子さんファンが知ったら、千年の恋も冷めること請け合いですよねー」
簡単に言うと演劇部の赤根雪子部長は、正真正銘のショタコンだったというわけ……です。
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