気にするな、と言われたのですが。

 ずっと斜め後方にふよふよ浮かんでたら気になりますよね!? 挙動不審になる私は間違ってませんよね!?

 くまくんは宣言の通り、私の私生活──主に学校の生活には干渉してきません。が、ずっと私の斜め後方に浮いています。移動するときも一緒です。どれだけ速く走っても同じスピードでついてきます。

「くまくん、君はビットかファンネルなの? それともドラグーン!?」

「安直にロボットアニメ化するな」

 あ、悪魔にこのネタ通じるんですね。意外と人間の文化を吸収しているんでしょうか。ショータくんという言葉さえ知らなかった頃とは違いますね。

「俺だって、お前の傍にいるからには人間の文化への理解も必要だろう」

「偏ってると思います」

 私は違うけれど、両親がアニメオタク気味なので……

 まあ、アニメは今やジャパニーズカルチャーになりつつあります。発祥はアメリカだったはずなんですけど。

 西洋文化のくまくんからすれば、ジャパニーズカルチャーは新鮮でいいのでしょう。知識に偏りが出ないことを私は切実に祈るのみです。

 今日も冴木さんや貴船さんと一緒に部室に向かいます。

「こないだ何も起きなかったね」

「……腑に落ちない」

「いやいや、そもそもただの怪談話の模倣だったんだし、実現した方が怖いよ」

「実現させたやつが言うか」

 くまくん、ツッコミが耳に痛いよ。

「……むう、こういうのは大抵執着や怨念があれば成功するのがセオリーなのに」

 貴船さんが納得いかなさそうに机に頬杖をつきます。その知識が正しいことを知る私は、一体どんな顔をすればよかったんでしょうか。

 そこでくまくんが説明を入れてくれます。

「こいつらの場合はお遊び感覚だからな。そっちの貞子は自覚していないようだが、執着はあれど、怨念にはなっていないんだ」

「貞子じゃなくて貴船さん」

「くまちゃんなんか言った?」

「あ、ううん」

 くまくんの解説は私以外には聞こえないのでした。それでもくまくんはほぼ無意味な解説を続けていきます。

「人間の間には"無邪気"という言葉があるだろう? 悪気がないことを示す言葉だ。つまり邪気がない。魔力は邪気とセミイコールだ。だから"無邪気"によって悪魔が召喚されることはない」

 なるほど、と感心して頷きます。くまくんは説明上手です。

「そんなこと言っても何も出ないぞ」

 出たら困るよ。

「まあ、出るとしても、お前の霊力は清いからな。そうそう悪いものは出ないさ」

 霊力が清い……言われて悪い気はしません。ですが、それが原因でくまくんにつきまとわれているので、微妙な心境です。

 というか、出そうと思えば何か出せるんですか。

「マジック程度のことならできるぞ」

 マジック……魔術とか?

「奇術の方だ」

 悪魔が奇術って、妙な絵面だと思います。くまくんは本当に悪魔なんでしょうか?

「あんまり失礼なこと考えていると、お前のJKライフとやらに支障が出ることするぞ。例えば俺なら突然現れるだけで大騒ぎだ」

「お願いします後生ですからそれはやめてくださいぃぃぃっ」

 ようやく手にしたJKライフなのです!

 すると私の叫びに冴木さんが怪訝な目をこちらに向けてくる。

「くまちゃん?」

「あ、いやなんでもないです! エアー友達とかいませんから」

「私、まだ何も言ってないんだけど」

 うわあああああ。

「見事に墓穴を掘ったな」


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