「はあ、人間のクズってのは扱いやすいな。呆れたもんだ」

 無様を晒して逃げていくチャラ男を見送りながら、男の子が口にします。

「……くまくん?」

「よぉ、さっきぶり」

「くまくん!」

「うおっ」

 再会の喜びに思わず抱きつきました。くまくんは渋面を浮かべて「女って自覚しろよ」とぼそりと呟きます。そこではっとして離れました。確かに、はしたなかったですね。

「ごめん……消えちゃった、って、思ったから……」

「ふぅん?」

 ひょこ、とくまくんが私を覗く。チャラ男に覗かれたときのような不快な感じはなかった。ただ、傍にいることの安心感が湧いてきた。

「まあでも、この姿もあんまり長く保たねぇんだよな」

「へ? また消えちゃうの?」

「そうそう。顕現し続けるのにお前の霊力じゃ足りなくなったから、周囲の幽霊やら妖怪から霊力強制収集して、今の姿」

 す、とくまくんが自分を指した指が透け始めていました。私は咄嗟に嫌だ、とくまくんを掴もうとしましたが、その手は空をすり抜けます。

 透ける体になりながら、くまくんはにかっと笑いました。

「なんだよ? 寂しそうな顔なんかして」

「だって、私の霊力切れたら、もう会えない……」

「……ははっ」

 くまくんは笑うと、こう紡ぎました。

「別に、お前と俺とのリンクが途切れるわけじゃない。お前の霊力がある程度戻ったら、また姿の見える状態に戻るさ」

「へっ、そうなの?」

「うん、そう」

「じゃあなんで先に言ってくれなかったの!?」

 あー、と罰が悪そうに頬を掻くくまくん。ちょっと照れながら、こう告げる。

「いや、あんなに早くなくなるなんて思ってなかったからさ……」

 なるほど、くまくんにとっても、あの出来事は予想外だったようです。それなら仕方ないですね。

 私は素直に笑います。

「じゃあ、ちゃんと戻ってきてくださいね?」

「おう」

 そこで透けていた体が完全に消えました。

 くまくんは完全に消えたわけじゃないということに私は安堵していました。

 騒がしくも面白おかしい日常を彼と過ごすのは楽しいですから。

「へぇ、そんなこと思ってたんだ」

「っくまくん!?」

 くまくんの声が聞こえて、辺りをきょろきょろします。が、あの生意気ショータくん悪魔の姿は見えません。

 きょろきょろする私を見て、くまくんがけらけらと笑う声が聞こえます。

「はははっ、声だけ出してるんだ。それなら霊力使わねぇし」

「そ、それは周りにも聞こえますか?」

「さあな」

 む、意地が悪いです。

「でもどうせ俺って周りから見たらエアーな友達らしいし? 本当にエアーになってちょうどいいんじゃねぇの?」

「いやいやいや」

 それこそマジもんのエアー友達病って呼ばれますから! 勘弁してください。

「じゃあ、よろしくな、エアー」

「私はエアーじゃありません!」

 と思わず叫んだところ、周りの視線が私に集中しました。……やってしまった感がすごいです。

「ななななんでもありません! 失礼しましたぁっ」

 私はまさしく脱兎の如く逃げ出しました。その様子を見ているのであろうくまくんがくすくす笑っている声にちょっとむかっときたので、今度顕現できるようになったら、首根っこ掴まえて振り回したいと思います。

「ちょ、それはやめて」

 華麗にスルーで!


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