……なんて感動も束の間、私は我に返ります。

「って、感動で流そうとしてますけど! 眞子さんちゃんと勉強しないと駄目ですからね!」

「う、気づかれた」

 感動で誤魔化そうとしていたのは本当のようで、私は少し落胆します。本物の友情に触れられたと思ったのに、全くもう。

「くまちゃん、ノート貸してよ」

「駄目です」

 そこから私は授業ノートというものの意味を滔々と語ります。

「いいですか? 授業ノートというのは、授業で先生が話した内容と照らし合わせながら執るから有意義になるんです。つまり、先生の話を聞いて、自分の中で咀嚼したものがノートになるんです。つまり、眞子さんがノートを執るには、先生の授業を受ける必要があります」

「くまちゃんの鬼!」

 眞子さんはそう言いますが、私は至極全うなことしか言っていません。その証拠に、私より成績上位者の美嘉さんがうんうん、と頷いています。

 眞子さんが味方を失ったように絶望した目になります。きっと、先生に聞きに行かなきゃならないと思っているのでしょう。「勉強わからないので教えてください」と先生に真っ直ぐ言える生徒なんてそういないでしょう。もちろん、眞子さんもその例外に漏れないようです。

 そんな様子に、私が溜め息を盛大にはあっと吐き出します。

「全くもう、何のために私たちがいると思っているんですか」

 期末テストに向けての勉強会。またの名を「眞子さんの救済処置」というんですよ?

「時間はかかりますけど、私たちが授業内容で覚えているところ、重要なところを説明しますから、眞子さんは自力で真面目にノートを執ってください」

「くまちゃん〜、美嘉〜」

 私の提案に、今度は眞子さんが涙目になる番でした。それを宥めつつ、本日も勉強会が始まります。


 帰り道。

「なんだよ、JKライフっての? 満喫してんじゃねぇか」

 勉強会のときは沈黙を保っていたくまくんが口を開きます。

「くまくん、今日は口出ししてきませんでしたからね。おかげさまで順調に進みました」

「……そうか」

 心無しか暗い表情のくまくん。

「いや、くまくんがいない方がいいとか、そういうことじゃありませんからね?」

 そこは勘違いしないでほしいです。ときにはボケ、ときにはツッコミ、というコミカルなくまくんとの日常が楽しくないわけじゃありません。

 悪魔召喚ができてしまった、と知ったときは、それは慌てたものでしたが。悪魔的な力を行使しないため、ほとんど無害な存在のくまくんは、もはや私の生活の一部となっています。はちゃめちゃですが楽しいですよ?

 けれど、くまくんの表情は晴れません。どうしたんでしょうか。そんなに口下手ではないし、むしろ常にボケもツッコミもフルスロットルな彼がこうも暗い雰囲気だと、心配になります。何かあるんでしょうか。

「悩み事ですか?」

「いや……なんでもない」

 人間以上に口数が多いのではないかと思われるくまくんが、こうも言葉を濁すなんて……ちょっと気になりますが、本人がなんでもないというのなら、深くは突っ込まない方がいいのでしょう。

 まあ、本人が話したくなったら話すでしょうし、と帰路を再び歩き始めると、久しぶりに人じゃないものに出会しました。

 まあ、くまくんはかなり高位の悪魔らしく、その力を恐れて、魑魅魍魎の輩が私に近づかなくなったのが主な原因ですが。それなりの存在感らしいくまくんを感じ取っているはずなのに、その人外生物は怯えもしません。

 それどころか、こちらにつかつかと歩み寄ってきます。背丈はくまくんと同じ、小学生くらいで男の子。黒髪黒目に黒を基調とした服装が特徴的なくまくんとは対照的に、その人外は、全身真っ白コーデでした。髪も真っ白。ただ一点、目だけがどこか毒々しく、赤く輝いていました。

 その姿に、くまくんがう、と唸ります。お知り合いでしょうか。

 それでもその白い人は迷いなく私に歩み寄ってきます。そうして、丁寧に、纏った白いマントを広げてお辞儀してきました。

「あなたさまが、召喚主さまですね?」

「えっ、ええ」

 私を召喚主と呼ぶなんて……くまくん関係の人でしょうか。

 すると私には礼儀正しかったその人は、くまくんを見下げ果てたような目で見ます。

「お前、契約期間が切れているのに、何故召喚主につきまとう?」

「え……?」

 契約期間切れ? つまり、

 くまくんがいなくなるということ?


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