「け、契約期間ってどういうことですか? 日本放送局じゃあるまいし……」

 戸惑いながら真っ白な悪魔くんに問いかけます。すると真っ白くんはくまくんを軽蔑した目で見ます。

「ちょ、真っ白くんって」

 くまくんがシリアスな空気ぶち壊しに噴きます。いやいや、噴いている場合ではないでしょう。

「この際ぼくの呼び名はどうでもいいです。そんなことよりお前、契約期間のことまで説明していなかったのか」

 くまくんは「あー」とか言って苦笑いして誤魔化そうとしていますが、どんどん真っ白くんの目が据わっていきます。

 けれど、くまくんは何も語る気はないらしく、閉口します。真っ白くんが仕方なさげに口を開きました。

「説明致しましょう。我々悪魔という存在は人間の伝承によって存在を保っているものです。人間の語った通りに在らねばならない。

 "あくまのぬいぐるみ"という伝承のために存在しているこいつは、本来なら、貴女を伝承通り"不思議の国"へ連れて行かなくてはなりません。

 けれど、悪魔として力を行使するためには、召喚主の魔力が必要……ですが、貴女は魔力ではなく、霊力でもってそいつを召喚しました。

 霊力は清い力であるため、悪魔とは相性がよくありません。しかし、その相性すら凌駕して悪魔を召喚した貴女の霊力は凄まじいとしか言い様がありません。

 ですが、我々は悪魔。きちんと悪魔としての役目を果たさなければなりません。そのため、こういうイレギュラーな事態が起こった際は、召喚主と同意の上で伝承を再現します。今回の場合は召喚主を不思議の国へ連れて行くことですね。

 召喚主の同意がない場合は力を行使できないため、まず、召喚主を説得するため、半年という契約期間が設けられます。けれど、その半年間で召喚主を説得できなかった場合は、悪魔の世界に帰還しなければならないのです」

 ご高説ありがとうございました。とてもわかりやすかったです。

「全くもって初耳な部分が多いんですが」

 くまくんを見ると、明らかに顔が拗ねています。

「お前はいちいちいちいち細かくて好かない」

「こちらも悪魔の管理をする身ですからね。人間で言うところの中間管理職ですよ。上司の突発的な発想も、部下の勝手な行動もほどほどにしてもらいたいものです」

 中間管理職って……悪魔にもあるんですね。お疲れ様です。

「っていうか、お前、こいつのこと悪魔だと思ってるみたいだけど、元・天使だからな?」

「なんですって」

 そういえば真っ白くんには山羊角も蝙蝠羽も見当たりませんね。真っ白な姿に似合わないからだと思っていましたが。

 まさか天使とは。

「って、んん? 天使が悪魔の管理人って」

「元・天使な。つまり堕天使」

「堕天使言わないでください。ぼくだって、望んで堕天したわけじゃないんです。上が勝手に悪魔とのパイプ役にするために堕天扱いし始めたんですからね。ぼくは被害者です」

 うわぁ、天使という言葉にそぐわないブラック加減。お疲れ様です。

「では真っ白くん改め天使くん、改めて伺いますが、こちらには何をしに?」

「この悪魔バカの回収です」

「回収って……くまくんいなくなっちゃうんですか?」

「なんですかくまくんって……悪魔だからくま? ネーミングセンスないな」

 文句ならうちの名切先生バカに言ってください。

「まあ、役目を果たせない悪魔をこちらの世界に留まらせておいても、次の召喚が行われたとき、人手が足りなくて困るんです」

「勝手に困ってりゃいいだろ」

「それができないからこうして来ているんじゃありませんか!」

 うわぁ、さすが悪魔と天使。仲悪い。

「はあ。貴方に帰る気がないのはわかりました。そうだと思って、今日は召喚主にお話ししに来たんですよ」

「わ、私にですか?」

 天使くんの赤い瞳が真っ直ぐ私を捉えます。

「ええ、こいつに返還命令を出してくださいませんか?」


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