エンジェルさんとは、こっくりさんみたいなもので、十円玉の代わりにボールペンを持ってやるやつです。

 召喚されるのが本当に天使かどうかは不明ですが、手順を間違えるとこっくりさんと同様とんでもないことに!? というのがエンジェルさんのあらましだったはずです。

 何故私がこんなに怪奇現象に詳しいのかというと、まあ、怪奇現象が嫌でも目に入りましたし、中学までの同級生の中にオカルト好きが何人かいたので、自然と覚えてしまいました。

 そんな推測がぴったんこ当たったようで、しろくんは硬直し、くまくんは笑いを噛み殺すのに必死です。

「天使がエンジェルさんって……」

 いえ、くまくんはさっぱり笑いを噛み殺せていませんでした。そんなくまくんの様子はよそに、しろくんは固まったままです。もしかしたらこのままからかってもしろくん反応がないんじゃないでしょうか。

 というか、自分の怪奇がバレるのって、そんなにまずいことなのでしょうか。

「おーい、しろくんー」

 目の前で手をひらひらと振ってみます。反応はありません。

 やっぱり、茫然自失としているようです。

「ぼーっとしてると霊力注いで使役しちゃいますよー」

「それはやめておけ」

 珍しく、くまくんから忠告がありました。

「こいつがありとあらゆる怪奇に繋がる悪魔を統括してるのは、こいつ自身が怪奇の存在だからだ。故に、怪奇として召喚されたなら、俺らと同じく力を行使しなければならない。

 だが、悪魔の怪奇と天使の怪奇の大きな違いがある。使う力の違いだ。俺たち悪魔は魔力を使うと言ったな。だが、天使は違う。悪魔と違って、霊力との相性が非常にいい。そこの白い中間管理職も元とはいえ、天使だった存在だ。霊力で怪奇を行使することができる。

 くそ真面目なこいつがお役目を行使しないわけがないだろう。その場合、お前はどうなる?」

「まあ、エンジェルさんに連れていかれるでしょうね」

 エンジェルさんの謂れにはいくつか説がありますが、神隠し的な感じになるという説もあります。「あくまのぬいぐるみ」もどことなく神隠しっぽいので、連想したのは神隠しでした。

「まあ、私がエンジェルさんをやったわけではないので、行使できるのかどうかはわかりませんが」

「やってなくても、できる力があればやるんじゃね? 堕天使だし、普通の天使ほど善良じゃないだろ」

「黙っていれば好き勝手言ってくれますね」

 あ、しろくんが復活しました。

「確かにぼくはエンジェルさんの怪異ですが、霊力注げば確かにエンジェルさんとしての力は行使できます。神隠しとか、もっと怖い目に遭わせるとか、色々と。

 でも、今ぼくはそんなことのために来たわけではないのです」

 そういえばそうでした。くまくんを連れ戻すために来たんですっけ。

「返還命令が下されないのなら」

 しろくんはむんずとくまくんの首根っこを捕まえます。じたばたとくまくんが抵抗しますが、ショタとショタなので、なんだか微笑ましい光景になっています。

「やっぱお前しょ」

 蝿を叩き落としました。

「いってぇ……」

「ざまぁみなさい」

 しろくんが腹黒い笑みを浮かべています。さすが堕天使。

 拾い上げようとしないので、私がくまくんを介抱します。

「大丈夫ですか? 顔面から地面に落下しましたが」

「やったのお前だろ!」

 鼻っ面赤くして凄まれてもなぁ。全然怖くないんだなぁ。見た目と相まって。

「ちくしょう、なんでこんな容姿なんだ」

「人間が使役しやすいようにじゃないですか?」

「理路整然、ちくしょう」

 あながち間違っていないのか、しろくんがうんうんと頷いています。

 まあ、悪魔も天使も人間の創造物ですからね。

 ただ後ろにいるのが中年のおっさん悪魔とか嫌ですし。くまくんが今の姿じゃなくて、もうちょっとがさばる感じの見た目だったら、私は即座に返却したでしょう。中年のおっさんなんて、うちのお父さんだけで充分に過ぎるというものです。

「親に対してひどい言い様だな。ってかがさばるって俺は荷物か」

「だって、触れるんですから、透明人間みたいなものでしょう。体が大きければ大きいほど、他人にぶつかるリスクが高くなって私のライフが減ること間違いなし」

「突然カードゲームにすんなし」

 くまくんのツッコミはスルーで、くまくんが中年おっさん悪魔だったらとか、ダンディー悪魔だったらとか、イケメンお兄さん悪魔だったらとか、色々考えてみました。

 ……やはり、今のショータくん悪魔の姿が一番しっくりきますね。

「やっぱりおま」

 虻ですかね。神速で叩き潰すべし。


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