ゆ
「それにしても、くまちゃん、悪魔召喚に成功してたって羨ましい……」
「え、悪魔召喚成功してもあんまり嬉しくない気が」
「しかも悪魔と普通に会話してるし」
普通とは一体。
「っていうか、悪魔を見てみたいとかお前も変な人間だな」
「うおおおお、喋った!」
「"も"って何ですか"も"って。まるで私が変な人間だとでも言いたげですね」
「そうは言ってないだろ」
じゃあ変なのは名切先生だな。
考えると思考を読み取ったらしいくまくんが噴き出します。
「違いない」
「ねぇ、なんか今失礼なこと考えられてる気がするんだけど」
「変態は黙っててください」
「いい加減そのネタ引きずるのやめてくれないかな!」
変態の言うことはスルーで。
そんな脇で貴船さんがあっちこっちからくまくんを眺め回します。どんな角度から見たってくまくんはくまくんだと思うんですが。
まるで新しい玩具をプレゼントされた子どもみたいです。
「わー、わー、これが悪魔かー。ショタ、短パン、太もも、ハスハス」
「いつものクールビューティー(語弊)な貴船さんはどこに行ったの!?」
「クールビューティー(語弊)って」
貴船さんの拳が名切先生にアッパー。見事にヒット。倒れた名切は、すぐには立てないようだ。
「何実況してんだ」
「駄目だったでしょうか?」
「いいぞ、もっとやれ」
「くまくんひどくない?」
貴船さんが目をきらきらさせながら私たちのやりとりを眺めている。
「すごい、人間みたいに喋るんだ」
「まあ、人間の創造物だからな」
「悪魔語とかあるのかと思ってた」
「お前は悪魔を何だと思ってるんだ」
「人外?」
「まあその通りだが」
くまくんは私以外相手でもテンポのいいやりとりをします。別に寂しくないですよ。寂しくなんかないですからね? 大事なことですよ?
それにしても、と貴船さんが首を傾げます。
「くまくんってこのショータくん悪魔の名前?」
「なあ、ショータくん悪魔っていうのやめてくんねぇ?」
「誰がつけたの?」
「スルーやめろ」
しかし華麗にスルーで。
私は名切先生を指差します。
「この変態です」
「先生と呼ぼうか」
華麗にスルーで。
貴船さんがうわぁ、とじと目を名切先生に向けます。先生が何さ? というと、貴船さんはぼそりと言いました。
「ネーミングセンス皆無」
「さっきからなんだかんだとひどいね? 君たち」
「だって、本当のことですもん」
ですよね。あくまの「くま」でくまくんとか安直この上ないですよね。こればっかりはくまくんも同意らしく、うんうんと頷いていました。
「名切はきっとネーミングセンスを母親の腹の中に置いてきたんだよ」
「君もひどいね、くまくん」
「「なるほど」」
「二人してあっさり納得しないで!?」
先生が涙目ですが、やっぱりスルーで。
「もっといい名前なかったの?」
「例えば?」
咄嗟に思い浮かばなかったのか、くまくんが首を傾げます。貴船さんはうーん、と悩んでから、人差し指を立ててにやりと笑います。
「グレーテスト・ザ・ベアーとかどう?」
「すごいかっこよさげに言ってるけど、"すごい熊"って意味ですよね」
「結局熊じゃねぇか」
「でもかっこよくない?」
「中二か」
貴船さんもネーミングセンスお母さんのお腹に置いてきちゃったパターンかな。
「というかくまから離れろよ」
「グレーテストってついてるじゃん」
「そういう問題?」
そうしてわいわいぎゃあぎゃあやっていて、楽しい時間は過ぎていきます。
周りから「何あそこ。小学生いる」とか「ショタの短パン、ぐほぅっ」とか「あれ唐突に現れたよね」とか聞こえてきますが、私たちは全く気にしていませんでした。(あれ? まともなコメントが一つしかないぞ?)
あんまりにもコメディしてたもので、私は重要なことを忘れていたのです。
それを思い知ったのは、冴木さんがやってきたときです。
「くまちゃんに美嘉に名切先生。……その子誰?」
すごい全うな問いです。
冴木さんに見られた!?
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