私にエアー友達がいようといまいと日常は進んでいく。

 夏真っ盛りの下、なんと、期末テストが行われる。夏休み前だからか。

 期末テストに向けて、部活動停止になった今、冴木さんと貴船さんに会う機会が激減するため、ぼそぼそ解説系かまってちゃんなくまくんをかまってあげられるかなぁ──なんて思っていた時期が私にもありました。非常に短かったですが。

 忘れていました。この二人が同じ中学から来た……ひいては幼稚園の頃からの幼なじみであるという仲の良さを。

 女の友情というのは見かけは固いが中身は脆いなんて話も聞きますが雨降って地固まったタイプの友情を舐めたらいけません。いいですか、男というのは単体の強みを持っていますが、女というのは団体の強みを持っているんです。

「それ、俺に教えてどうすんだ」

 エアー友達、相変わらず顕在。

「エアーでもねぇし友達でもねぇ」

 そんなツッコミはさておき。

「勉強会しようぜ!」

 ほわほわしたボブカットをふわりと閃かせ、冴木さんがそう言ったのです。

「眞子、またピンチなの?」

「うぐっ、またとは人聞きの悪い。まるであたしが毎回ピンチみたいじゃないか」

「眞子のこないだのテストの総合点数がワースト五に入ってるの、おばさんに行っちゃおうかな」

「後生だからそれはやめて」

「後生とは一生に一度と類義語。眞子は何回死ぬつもり?」

「物騒!」

 その上ストレートです、貴船さん。さすが幼なじみというか。言葉に遠慮が見られませんね。

「こういうのを気の置けない仲っていうんですね」

「なんか違うけど、くまちゃんも友達なんだから手伝って!」

 聞きましたか!? 私、友達なんですって。やったぁ、ひゃっほーい!!

 そこで貴船さんが私の隣に来て冷たい眼差しを冴木さんに向けます。え? なんか急に険悪な雰囲気……

「誰に物を言っているんだ。頭が高いぞ」

「ぐっ」

「なんでどっかのバスケ漫画ごっこになってるんですか!?」

 "頭が高い"の一言に膝から地面に崩れる冴木さん。妙なところでクオリティ高い演技って何なんでしょう。

 というか私は頭が高いと表現され得るほどの才能ありましたっけ?

「テスト上位ランキングを確認しないのが君の悪い癖なのだよ」

「キャラ変した!?」

 ラッキーアイテムに狸の信楽焼とか言い出したりしないですよね!?

 それはともかく、そういえば、この学校では校内外のテストの上位ランキングを貼り出しているんでしたね。

「ここにいるお方をどなたと存ず? 先のテストではトップテン入りを果たした、日隈白詰草公であるぞ!」

「ジャンル変更しないで!?」

 どこのおじいさんですか。杖を突いてかっかっかっとでも笑っていればいいんですか。

「ナイスツッコミ〜」

「ひょっこりみたいに言ってないで、ワースト五の自覚を持て」

「……う、はい」

 貴船さんはボケとツッコミの両刀使いのようですね。

「何の分析してんだよ」

 エアー友達からのツッコミは笑顔でスルーで!

「オイ」

 だって、周りからは一人で喋っているようにしか見えないんですもん。ああ、悪魔に憑かれるって大変です。

「自業自得だろ」

 言わないで、耳が痛い。

「って、くまちゃん、聞いてる?」

「あ、はい、すみません。それで、勉強会?」

「そうそう。眞子への救済措置とも呼ぶ」

「美嘉、勉強する前からやる気失せるんだけど」

「何を言っている。勉強せぇ、勉強せぇ、馬車馬のように勉強」

「馬車馬は勉強しないよ!?」

 全くその通りで。

「じゃあがり勉のように勉強」

「一気に現実味が」

「まあ、勉強するに越したことはないですからね」

「味方がいない」

 冴木さんの呟きは私の耳には入っていませんでした。

 なんてったって、友達と勉強会、勉強会ですよ!? 小学校中学校とさして友達とも呼べる人がいなかった私にとっては夢のような話です。

「やりましょう!」

「オイ、俺はどうするんだ?」

 放置で!

「笑顔で言うな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る