「──で、結局何ですか。あなたが怪談通りの悪魔だとして、私を不思議の国にでも連れていくんですか? このお下げ、金髪にでも染めましょうか」

 金髪にした途端、お下げって冴えないイメージなくなりますよね。なんででしょう? 世の中理不尽ばっかりです。

「なんで西洋思想なんだ。俺は黒髪黒目で現れたのに」

 確かに悪魔のショータくんは黒髪黒目の生意気ボーイです。

「ちょっと待った、何すごい失礼なこと考えてんだ」

「ちょっと待つのはそっちです。なんで人の思考読み取ってるんですか気持ち悪い」

「悪魔なんだから仕方ないだろ」

 ほら、ここにも理不尽がころり。理不尽死んでくれないかな。

「理不尽は生き物じゃないからな?」

「じゃあ理不尽なショータくんが死ねばいいと思うよ」

「酷っ」

 顔を歪めたショータくんが、ふと思い出したように問いかけてきます。

「そういえば、なんでさっきからお前、俺のことショータくんって呼んでるんだ?」

「悪魔の割に人間のことを知りませんね。ショータくんとはあなたみたいな年齢が低めの容姿の男の子のことを言うんです」

「くまちゃん詳しいね、もしかしてしょたこ」

「失礼は黙ってください」

 再びアッパーカット。クリーンヒットでしょうか。失礼──もとい、先生が起き上がって来ません。

「ふぅん。人間って変な呼び分けするもんだな。黒人とか白人とか」

「急に壮大になりましたね」

 アメリカなどで未だに強く根づいている差別文化ですよね。嘆かわしい限りです。

「いや、ショータくんは日本人独特の呼び方だよ……」

「あ、失礼が起きた」

「先生に向かってそんなこと言う方が失礼だと僕は思うよ?」

 正直、先生がショータくんを連れてきたように見えるので、さくさく説明していただきたいんですが。

 ショータくんが一つ溜め息を吐くと、ようやく説明してくれました。

「察しがついていると思うが、俺はお前の儀式で呼び出された悪魔だ。だが、できることはこの学校に伝わっているような"不思議の国に連れて行かれる"なんてそんなファンタジーなことじゃない」

「存在そのものがファンタジーのくせに何言ってるんですか。ファンシーの間違いじゃないですか。このショータくん悪魔」

「さっきの説明を聞いた後だと罵倒にしか聞こえないぞ、つば」

「罵倒してるんです。あとその呼び方やめてください」

「じゃあお前もそのショータくんってのやめろ」

 見た目は幼いくせに偉ぶっていられるとなんだか腹が立ちますね。というかさりげなく言った生意気に関してはツッコまないんですね。

 それから、ふと思い至り、悪魔に質問しました。

「それは別にいいんですけど……じゃあなんて呼べばいいんですか?」

「悪魔でよくね?」

「それ名前ないって言いません?」

 すると、悪魔くんは口を尖らせていじけたような表情をします。

「だって、俺はただの怪談で生まれた悪魔だもん……」

「なんでこういうときは見た目年齢相応にショタっぽいんですか」

「先生に名案がある!」

「自分で自分を先生とか痛いぞ、名切」

「なんで君たち僕に当たり強いの?」

 名切先生が苦笑いをします。特に何も思いません。我が部活の顧問である名切先生はどこかだるっとした格好と生徒と間違えられるほどの見た目から、なんとなく敬意の対象にはならないのです。

「だってさ」

「勝手に心読まないでください」

「くまちゃんもくまくんもひどいね!?」

「あ?」

 悪魔の名に相応しく、くまくんと呼ばれた悪魔くんは険しい面差しになり、小さい蝙蝠羽をぱたぱたさせながら先生にガンを飛ばします。愉快な光景です。

 名切先生は冷や汗を浮かべながら、あははと笑って目を逸らします。疚しいことがありまくりなのでしょう。

「だから、悪魔くんは"あくま"なんだから悪魔を略してくまくんでいいんじゃないかな?」

「なんだその適当な言い訳」

「ほら! 召喚したのくまちゃんだし。くまとくまで名コンビ間違いなしだよ!」

「めいコンビのめいは名じゃなくて迷うですよね?」

「くまちゃんさりげなく拳を固めるのやめてくれないかな?」


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