いや、ただの試し書きでしたよね? そう宣言してましたよね? 伸也先輩。

 なんで色々ぶっ飛ばして今年の題材に決定なんですか!? 性癖にドストライクなのはわかりますが。

 とは思っても、私は演劇部ではなく、手芸調理部。演劇部のことに口出しできません。しかも一年生という下っ端です。

 けれど、部長とはいえ、鶴の一声みたいにぱっと決めるわけにはいかないでしょう。私は部室に集う演劇部の部員さんたちの様子を窺います。

 お、にやにやしているやつが一人。

「いいじゃないっすか。すげぇっすよ、竹崎先輩。俺は部長に賛成っす」

「てめぇは黙ってろ諫早」

「ちぇ」

 一刀の下に切り伏せられる諫早くん。あはれなり。

「お前、楽しんでないか」

「別に人の不幸は蜜の味とかではないです」

「そこまでは言ってねぇ。腹黒か」

 むむ、私はくまくんに一刀の下に切り伏せられてしまいました。

 まあ、諫早くんを見てざまぁ、と思ったのは確かです。

「白状した」

 そんなことより、この様子だとくまくんが舞台化されてしまいます。

「話逸らした」

 他人事ですね。

「他人事だろ?」

 いやいや、くまくんのことですからね?

「でもなんとかするのはお前の役目だ」

 ぐぬぬ。ん? このやりとりに既視感が。

「別に台本と俺の性格とか関係ないし、なんか別にどうでもよくね?」

 そう来ましたか。

 確かに、演劇部の皆さんはくまくんのことを詳細には知りません。ちょっとツンデレな悪魔ということも。

「おい」

 ツンデレ生意気ショタハスハスとか言い出しそうですから言いませんよ。誰がとは言いませんが。

 私は成り行きを見守ります。

 他の演劇部員さんたちは顔を見合わせ、口々に「別によくね? 俺ら台本書くわけじゃないし」「部長がいいんだったら別に異論はないよね」「反論とかめんどい」「竹崎先輩が書く台本とかめっちゃ気になる! やってみたい」……etc,etc.

 むむ、なんだか賛成派勢力が多いというか、賛成派しかいないような……

「では、部員の総意により、決定!」

「俺入ってないんだから総意じゃなくね?」

 日本は民主主義の国ですからね。なんでも大体多数決で決まっちゃうんですよ、先輩。

 まじかー、と頭を抱える伸也先輩と一緒に、私もまじかー、と思っていますから大丈夫です。一人じゃないですよ、伸也先輩。

 まあ、言わないので伸也先輩の知るところではありませんが。

 と、

 ぐいっ。

 急に引っ張られる感覚。え? 誰? と思ったら、いつの間にか赤根先輩の顔が目の前に。可愛い系の方なんですね。男だったら惚れてまうやろ、なくらい顔が近いですが、私は男じゃありませんし、千年の恋なら覚めてしまう事実も知っています。

 とりあえず、一言で今の状況を表すなら、「何事!?」

「日隈さん、と言いましたね。衣装の設定は日隈さんに是非是非お願いしたいのだけれど」

「えっ……えっ……」

 一年生の私にそんな大任……と思って呉服副部長を横目に見ます。助けて。

 呉服副部長は首振り人形みたいに首をかくかく縦に振っていました。って、え。

「異論はありません」

「ちょっと、呉服副部長!?」

「まあ、副部長が言うなら……」

 さっきの演劇部みたいな流れでオッケーの方向に持っていこうとしないでくれますか、皆さん!? 私後輩ですよ? 後輩ですよねぇ?

「手芸調理部も総意で決定しました」

「待ってください。ここに来ている手芸調理部一部ですし私は認めてませんし、総意なんかじゃ」

「もしもの際はこちらでの指揮を任されている私に声をかけてくだされば、フォローできます」

「副部長、一生ついていきます」

「いや、変わり身早いなお前」

 よぉし、後ろ楯は得たぞ。多数決には負けたけど。

「じゃあ、よろしくね! 日隈さん」

 ええい、ままよ!


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