第61話 黒肌で角をもつ男

 族長が崩れ落ちると、それを見た黒肌で角をもつ男は、牽制に追いかけ回していた近衛隊の2人を軽くあしらうように吹き飛ばし、

『あらら、敗けちゃったかー。ここまで想定を上回られるとはなー』

と言ってこちらをぐるりと見渡してきた。


『うーん、そこに混じっている猿族が原因か?…ここでつぶしておくか?』


俺を見据えてつぶやいた不穏な言葉と共に黒肌で角をもつ男が表情と気配を変え、ゾクッと金縛りになるような威圧感が周囲に放たれた。

『ぐっ…』

恐怖で震える体を何とか動かし盾を構えると、リュノとフラナ姫が顔をしかめながら対抗するように魔力を高め、ミズハ隊長と近衛隊員が必死の形相で射線を遮るように駆け寄ってきた。


『ふーん、これでも立ち向かってくるのか。疲れそうだな…潰したところで言うことを聞く従順じゅうじゅんなフーリル族が手に入ることもなく、逆に敵が増えて面倒なだけか……自ら手を出すのもおもむきに欠けるしな…』


そう言うと男は威圧を解いてひょうひょうとした雰囲気に戻り、

『フーリル族欲しかったけど、今後は魔力不足で脅威度下がるし良しとするかー。ドレインの魔道具に使った希少な素材がちょい残念だったけどー、まぁそこそこ楽しめたしなー。あっそうだ。そこの猿族、名前はー?』

と言いながら俺を指さしてきた。

『……』

押し黙っていると、

『まぁいいや、落ち目のフーリル族と一緒にいるなら大したことないだろーし、名前を覚えるほどでもないかー。まぁちょっとした不確定要素があった方が楽しめそーだし、今回の頑張りに一応お前の印象を覚えといてやるかー。あっちなみに俺は魔人のクロちゃんねー。次会うことがあったら名前が知りたくなるくらいになって楽しませてくれよー』

と一方的に言うと背から黒い羽根を生やした。


(!)

相手が魔人という言葉を発すると同時に、息をのむ声や戦慄・動揺する空気が広がったが、ミズハ隊長が一歩前に出て

『逃がすと思うか?』

と突撃しようと剣を構えると、近衛隊も続いて剣を構えた。


その様子を見た男は

『そういえば猪族に渡しといた溶岩竜が、族長が理性を無くしたときに暴れだしただろうなー。魔力が少なくなってきている残りの戦力で里がもつかなー?早く駆けつけた方が良いんじゃないかー?』

と言って、底意地の悪いニヤニヤとした笑いを浮かべた。


ミズハ隊長をはじめ皆が逡巡しゅんじゅんすると、そこへダガト攻撃隊長が飛び込んできた。

『守備隊長と俺で溶岩竜を倒したら、猪族のやつらりになりやがった!であっちは任せてこっちに来たが…ん?そいつが敵か!?』


『…』

『……』

皆が剣を構え直し臨戦態勢となった。


『ちぇっ、やっぱ魔法使える内は優秀だなー…なぁフラナ姫、猪族が確保しているマリョの実を報酬にやるから俺に協力しないかい?』


『絶対にしません!』


『…そうだろうね。まぁいいさ、これから魔力不足で苦しみなー!!』


その言葉と同時に黒肌で角をもつ男は、1つだけ残っていたフーリル族の魔力を吸収した魔道具に魔力を打ち込み、呪文を叫んだ。

すると魔道具は大爆発を起こし、爆風が粉塵を巻き上げ、とっさに取った回避行動から体勢を戻した時には、既に男は遠くへ飛び去っていた。



『姫様、どうしますか?』

『今から追うのは厳しいし、あれは底が見えません…こちらを軽く見て終了したようなので深追いはやめましょう』

『了解しました』


『まずは状況確認ですが、何よりカズマ様、アカリさんは大丈夫なのですか!?落ち着いておられるので大事ではないと思っているのですが…』

『あ、朱里は大丈夫です。族長がモナカに斬りかかる直前に防御と刀をモナカに任せ、こっそり族長の後ろに回り込んでいましたから』

『あぁやはりカズマ様の投げたカットラスで斬ったのはアカリさんでしたか。無事で良かったです』

『えぇ。ただモナカが切断されたのは予想外で…あれは焦りました』

『そうだ、いくらナンタム族とはいえ、モナカは大丈夫なんですか!?』

『核が無事ですし、後からちゃんとくっ付いていましたので問題ないみたいですよ。…すっごく痛かったらしくて泣いてましたけど』

『ふぅ、モナカも元通りになるんですね、傷も残らず可愛らしいまま?…良かった。…ミズハ隊長と吹き飛ばされていた近衛隊の2人も大丈夫ですね?』

『『はい』』

『あと猪族に協力した彼と、族長以外の4人の猪族は?』

『全員亡くなっております』

『そうですか、聞きたいこともあったのですが残念です…まぁでも今回のはめられた状況で、里から駆けつけたメンバーが全員無事に乗り越えられてホントに良かったです。念のためケガした人には回復魔法をしときますね。アカリさんも確認と回復をしたいので、すいませんが姿を現してもらっても良いですか?』

『えぇ。朱里ちゃんに確認して魔力充填するんで、ちょっと待ってください』


「朱里ちゃん、フラナ姫が朱里ちゃんの確認と回復したいから姿現して欲しいってことなんだけど、魔力譲渡して良い?」

「うん、いいよー」


ってことで、朱里ちゃんに魔力譲渡したとたん、実体化した朱里ちゃんにフラナ姫とリュノが凄い勢いで抱き着いた!


『うわっ!そ、そんなに心配させちゃいました!?私は大丈夫ですから』

『『違う!服!!』』

『…えっ!?』

『…あっ!』

しまった!俺や朱里ちゃん以外にはあっちの服は見えず、朱里ちゃんが裸で現れたことに…


『こらっ!カズマっ!…は見えないのか、早くこっちの服だして!』

『ダガト攻撃隊長はこっち見ないように!!あー、この後まずは結界の再構築をするので、ダガト攻撃隊長は男性の近衛隊員2人と共に、猪族の族長と取り巻きの4人と亡くなった彼の身柄を持って状況説明に先に里に戻ってください!!』

『お、おぅ…』


ダガト隊長と男性の近衛隊員が追い出されるように伝令に飛び立ったあと、無事に?朱里ちゃんの着替えと回復が行われたのだった(なお、ダガト隊長も戦闘でそれなりに傷ついていたのに回復される前に猪族を抱えて飛んで……すまん)

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