第37話 アパートとフラウ姫達(2)

 寝る場所はフラウ姫達がベッドで、俺が床にキャンプ用のマットでも敷いて寝れば良いとして、あとは…お風呂か。

順番としては、まずはお風呂の準備をして、お風呂に行ってもらってる間に、ベッド全体とベッドに接する壁とかのコーティングを整えるのがスムーズだな…

宿を見る限りお風呂の文化はありそうだったし、女性だから身体を洗いたいと思うけど、とりあえず確認するか。


『えーと、今からお風呂の準備をしますが、3人とも入られますか?』


『お風呂!もしかしてカズマ様のこのお家に、専用のものがあるのですか!?』

『こちらではどういった物なのでしょう!?』


おぉ、めっちゃぐいぐい身を乗り出してくるな。

『個人の物なので小さいですが、一応専用のものがあります…こちらではお湯を張って温まる浴槽と、身体を洗う洗い場がある感じですね』

『何て素晴らしい…最高ですね!』

『既に色々お世話になっていて恐縮ですが、是非お願いしたいです!』


『じゃあとりあえず説明するので、付いてきて下さい』


3人を連れてリビングから廊下に戻り、風呂場に続く洗面所のドアを開けた。

俺の部屋は間取りに余裕があり、風呂は1坪(2畳)の大きさで、洗濯機や洗面台のある洗面所兼脱衣室が前面にあり、トイレは別になっている。まぁ住む所の安さと広さは、田舎の数少ない利点だよね。

とりあえず、風呂桶と床とカラン(蛇口)にコーティングして、お湯を出して…


『水やお湯はそのままでも触れると思うのですが、どうですか?』

『あ、触れます。すごい、いきなりお湯が出てくるのですね』


ミズハ隊長がお湯に手をかざして確認し、目を丸くしていた。


後は、体を洗う石鹸と、髪の毛を洗うシャンプーとコンディショナーのボトルにコーティングをしながら、使い方を説明した。

ついでにトイレも説明とコーティングをしておこう…



『では、行ってきます』

3人順番に入るのかと思っていたのだけれど、3人は連れ立ってお風呂に向かった。

3人同時はさすがに狭いと思うのだけれど、小さくなって入るのかな?


とりあえず、脱水と乾燥については水と風の魔法でできるらしく、バスタオルは要らないようなので、体を洗う用のタオルだけコーティングして渡したが…タオルを持つと扉を素通りできなくて困ってたので、全ての扉のノブもコーティングして回った。うん、見えてる物と透き通る感覚がバグって難しいな(笑)

とりあえず後は問題なさそうだったので、ベッド全体とベッドに接する壁とかのコーティングを行っていった。


お風呂からは念話ではなく、あちらの言葉で喋っているのだろう、キャイキャイした声が聞こえるが、盛り上がっているようで何よりである。一瞬先輩に聞こえたらヤバいって思ったけど、そういえば認識されないし大丈夫か。


ふぅー。しかしコーティングの量が多かったので、また小腹が空いてきたな…。


何かつまみでも作ろうかと、玄関側の壁に備え付けられているキッチンに向かうと、壁に蒼色の糸が付いていた。

何だコレ?…不思議に思い糸を取ろうとつまむと若干じゃっかん湿っていて…あっ!


次の瞬間、髪に違和感を感じたリュノが髪に手をやりながら後ろを振り返り、壁を突き抜けてリビング側に現れたリュノと目が合った!…おそらく風呂桶の縁に座っていたリュノが体をひねったことで、濡れて上気した腕や肩、羽だけでなく大きなふくらみがしっかりとこっちに現れており…思わず目を向けてヤバっと慌てて目を逸らすと

「きゃあぁぁーー!?」

という悲鳴をあげて、リュノが胸を手で押さえ真っ赤な顔で引っ込んでいった……しまった、悪いことをした…



『ごめんなさい』と念話で謝り、反省していると、

『むぅー、さっきのは事故だからしょうがないけど、ちょっとこっちに来て』

とリュノから呼び出しがかかった。


洗面所兼脱衣室の扉を開けると、リュノが風呂場の扉を貫通してまだ赤い顔をにゅっと出してきた。

『さっきはごめん』と頭を下げると、『いいの』と言いながら更に赤くなり…何かちょっと気まずい。


『で用事は?』と聞くと

『あ、あのね、シャンプー?なんだけど、ボトルは押せるけど中身が素通りするのよ』

と言ってきた。あーなるほど…

『それなら、一旦こっちで出して中身をコーティングしてくるよ…3人分コップにでも出してくるかな…じゃあ廊下で待ってるから、シャンプーとコンディショナーのボトルをこの部屋に出して貰える?』

『分かったよー』


リュノが頷いたので洗面所から出ようとすると、

『それなら面倒なことせずに手渡しで問題ないよ』

と言う言葉が聞こえて、バーンと風呂場の扉が開いた!

するとそこには、顔を突き出す形で前かがみになったリュノと、片手にシャンプーとコンディショナーのボトルを持ち、扉を勢いよく開けて仁王立ちするミズハ隊長の姿があった!


『ふぇぇ!』

目をぐるぐるさせて、慌てて胸と股を手で押さえて前を隠すように横向きになるリュノに、

『大丈夫だ。ちゃんと開ける前に必要な所には魔法で目隠ししてるからな。』

と上機嫌でほんのり朱色のミズハ隊長は仰るが…ホントに必要最小限の局所的で、ヤバいって!

リュノは横向きでおしりが眩しいし!隊長ほとんど隠れてないです!

フラウ姫はバスタブの中で大爆笑してた。良いんですかこれ!?


固まっていると、ミズハ隊長がシャンプーとコンディショナーのボトルを、先っぽ以外隠れてない胸を揺らしながら渡してきた。

ボトルを受け取るとミズハ隊長は『よろしく』と手を振り戻っていき、桃源郷の扉は閉まったのだった…


直ぐにリュノのうきゃーって攻める感じの激しい声と、ミズハ隊長の落ち着いた声、フラウ姫の笑い声が続いたが…落ち着け俺、待たせる訳にもいかないし、深呼吸して粛々とシャンプーとコンディショナーの準備をしよう…



そうしてお風呂から上がったフラウ姫とミズハ隊長は、湯上がりの上気した肌と表情で、お風呂自体とシャンプーとコンディショナーを大絶賛していた。

うん、満足してくれて良かった。

リュノも相づちしていたけど…多分俺と同様、それどころじゃない気持ちが大きかったみたいだなぁ(笑)


とりあえず、その後軽ーく飲んでから、3人にはベッドで寝てもらい、俺は床にマットを敷いて横になった。いやー濃い一日だったな…

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