第36話 アパートとフラウ姫達(1)

 夕飯は多少の疲れもあり、フラウ姫を待たせるのも悪いので、ちゃっちゃと作れるうどんにすることにした。ご飯を今から炊くと時間かかるからねー。具材は大豆が魔力にすごく良いので、大豆が原料の油揚げをメインに買ってきて、あとは半熟卵とネギをのせた。味付けは俺の好みで昆布出汁と薄口醤油の関西風である。


そうして出来上がったうどんを座卓に持って行くと、3人とも既に肌がほんのり桜色に染まっており、ご機嫌であった。

帰って来る時は1番小さい状態だった3人の身体が、今は(枝豆とビールを食べるのに合わせて?)半分くらいの大きさになっているんだけど、何か可愛い感じである。


『カズマ様、この枝豆とビール最高ですね!』

陽気になったミズハ隊長が声をあげ、フラウ姫が笑顔でウンウン頷いている。

『リュノも大好きではまったので出させてもらいましたけど、気に入ってもらえて良かったです』

好評なことに安堵しつつ答えていると、なぜかリュノは、陽気で大きな声をだしたミズハ隊長を見ると焦った様子で『姉さん、お酒はそれくらいで止めとこうねー』と言っていた…良い感じに酔っているだけに見えるけど、何か変な酒ぐせでもあるのかな?


座卓にうどんを置きつつ、リュノに目で問いかけると

『ミズハ姉さんが酔うと、なぜか私にだけ超当たりが強くなって、私が大変な目に遭うのよ…』

と言ってきたが…それは日頃の行いに対する文句や反動が爆発してるだけでは…?

『あと、暑いって言って魔力の服を消すこともあるし…』

マジで!?

驚いていると、耳聡く聞きつけたミズハ隊長が

『リュノ、私を何だと思っているの?…妹の大事なカズマ様の前で、そんなことする訳ないじゃないですか』

と突っ込んできたが…んん!?

『ふえぇっ!な、何を言ってるの姉さん!』

『まぁ!そうなのリュノ!ふふふっ』

フラウ姫は目を輝かせ、口に手を当てて楽しそうである。リュノはめっちゃワタワタしてるし、ええっと…?

『ふつつか者の妹ですが、カズマ様、よろしくお願いします』

『姉さん!!?』

混乱にさらにかぶせられ、ますます慌てて赤くなるリュノと、背筋を伸ばしてお辞儀した後でクールを装っているが、口元のニヤニヤが抑えられないミズハ隊長。あ、隊長がリュノの隙をついて笑った目でウィンクしてきたし。そしてニコニコしているフラウ姫…これは、からかい甲斐がいのある妹をいじってるだけだな。あと、フラウ姫は笑い上戸だなー。…とりあえず乗っておくか

『ではつつしんで…返品させて頂きます』

『えぇ!ちょっ!カズマ!』

『残念ながら返品はできませんので、煮るなり焼くなりご自由に』

『それは困りましたね。では、ゴミの日はいつだったかな?』

『ふふふふふっ』

さすがにおかしいと気付いたリュノが、からかわれた事にぐぬーと唸ったところで、大爆笑になったのだった。


その後、むぅ…とむくれてるリュノに『ホントはリュノのおかげで今があるし、大切に思ってるよ』と言いつつ枝豆を口に入れてあげると、『そ、そう?それなら良いのよ』と言って機嫌が直った。うん、チョロい(笑)。フラウ姫もミズハ隊長も笑ってるし、リュノはマスコット的な感じで愛されてるなー



さて、折角作ったうどんが冷める前に食べないとね。

『とりあえず冗談はこれくらいにして、こちらが本日の夕飯の”うどん”と呼ばれる麺料理です。これは同じ豆を材料にした油揚げというもので、これをのせると”きつねうどん”と呼ばれます。あとの具材は半熟にした卵とネギですね。簡単なものですいませんけど』

『いえいえ!お家に滞在させて頂いただけでもありがたいのに、お食事までご用意頂いて申し訳ありません!』

『こちらではこの箸を使って食べるのですが、慣れないと難しいのでこのフォークでどうぞ。熱いので気を付けて』


3人にフォークを渡し勧めると、興味津々でうどんを見ているが、お互いに目配せして一口目にいけていなかった。

初めて見る物だし、ここは食べやすいように手本?を示した方が良いかな?

あっそういえば異世界のマナーは分からないけど姫様だし、マナーも気になるのかもしれないな。

『このうどんは庶民もよく食べる麺料理で、フラウ姫からするとマナーが悪く感じるかもしれませんが、音を立ててすすっても問題ないくらいですので、食べ方に気をつける必要はないですよ』


ひとまずマナーが必要ないことを伝え、異世界での活動(宿の看板娘のコピアちゃんのしごき)や今のコーティング作業でもの凄くお腹が空いているので、お箸で麺を大量につかみ豪快に1口目を食べた。そして、だしをすする。

うん、ホッとする味だねー。染みわたる〜


その和真の様子を見ていたフラウ姫達が、美味しそうだし早く食べようっと目の前のうどんに向き直り、それぞれフォークでうどんをすくい、1口パクッと食べた。

すると

『美味しい!』

『すごい食べやすい味で、いくらでも食べられそうです!』

『この油揚げと卵も美味しくって、魔力も増えて、最高ですね!』

と喜んで食べてくれた。うん、受け入れられて良かった良かった。


そして、全員がうどんを完食し、満を持してのケーキである。

ケーキを見たら、3人全員が身体を元の大きさに大きくして準備万端になったよ…(笑)


ひとまず4号のホールケーキを座卓に置き、4等分に切り分けようと包丁を持ってくると、フラウ姫が

『カズマ様、切り分け役はミズハに任せてもらえますか?』

と聞いてきた。

『えぇ、良いですけど』

とりあえず包丁にコーティングしてミズハ隊長に渡すと、

『ではお借りします』

とミズハ隊長は真剣な表情で包丁を受け取り、ハッ!と裂ぱくの気合と共にシャシャッと十字に切り分けた!

すげぇ。ケーキの断面は綺麗でゆがんだ部分もなく、大きさも寸分の狂いなく全く同じに見える…。

うわっ!ケーキの上にごろごろ乗ってたサクランボとイチゴとメロンが、スパッと綺麗に切れてるよ! …見てたのに俺の包丁で切ったとは信じられない…


ちょっと戦慄を感じながら切られたケーキを皿に載せ、みんなの前に置くと、3人は目をキラキラさせていた。あっリュノが唾を飲み込んだ音がした(笑)


そして、食べ始めたところ…フラウ姫は上品に一口食べては手足をバタバタさせ、ミズハ隊長は勢いよく食べては目を閉じて深く味わい、リュノは相変わらず頬一杯に放り込んでモキュモキュしてと、食べ方は3人それぞれなんだけど……もうね、3人の幸せそうな顔が全てを物語っていた。

買った甲斐かいがあった。というか眼福でした。。。



さて一息ついて、3人は満足した表情で今日のことを振り返ったりしながら、楽しそうにおしゃべりしているのだけど…

リュノ達って、お腹いっぱいで小さくなれるんだろうか?中身出てきたりしない?

3人には小さくなって寝てもらうつもりだったけど、難しいのでは…

まぁどちらにしても、フラウ姫を床とかに寝かせるのはどうかと思うので、フラウ姫達にはベッドで寝てもらうかな。壁から向こうに行かないように、ベッドに接する壁にもコーティングしておいた方が良さそうだな…。

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