第30話 冒険者ギルド

 冒険者ギルドへは、一旦宿屋に戻り、朱里ちゃんへの魔力譲渡が切れて朱里ちゃんが透明な状態になってから向かった。


俺はてっきり、朱里ちゃんも冒険者ギルドに凄く興味あるみたいだし、登録するだろうなって思ってたんだけど、

『朱里ちゃんも登録する?途中で切れないように魔力譲渡追加しようか?』

って確認すると、朱里ちゃんは

『う~ん、正直興味はあるけど、既に誰にも見られずに街に出入りすることができるし、存在を隠しといた方が警戒されたり気付かれたりしなくて利点が多そうだから、止めとこうかな。

…それに街に来るために父さんとの約束をオーバーして実体化してるしね。

装備はリュノさん達の好意だし安全性が高まるから受けても問題ないだろうけど、冒険者登録は必要性がないし。

私は影から和真君をいじって楽しむ…もとい、サポートする役に徹するよ』

と言って断っていた。

…なんかチラッと本音も聞こえた気がするが…まぁ登録したくなったら後からでもできるし、その時にちゃんと大樹さんの許可を貰ってからの方が良いかって話で落ち着いた。



 そうして、見えるのは靴だけになった朱里ちゃんだけど、靴だけが動くのは不自然だから、宿を出るときに元の世界の靴に履き替えてもらい、地面のある道中は普通に歩いて進んだ。

確認のため朱里ちゃんにちょっとバタバタと走り回って貰ったけど…うん、朱里ちゃんが見えてる人はいない感じだね。


そして、地下のある可能性があるギルドの建物に着く少し前に、俺はリュノに身体強化魔法をかけてもらい、リュノのマジックポーチに預けていた元の世界の背負子しょいこ(荷台付き)を背負った。

「怪我したとき用に持ってきたけど、こんなに早く出番があるとは。準備しといて良かったねぇ」

そう言って朱里ちゃんはポンッと背負子の上に背中合わせに座った。

「落ちるなよ」

「紐もあるし、和真君がよっぽど変な動きしない限り大丈夫だよ…心配ならしっかりしがみ付いておこうか?こんな風に」

そう言うと背負子に膝立ちでもしたのか、首の前に手が回され後頭部にむぎゅっと柔らかいものが…

「お、落ちなきゃ良いから!」

「ぷくく…とりあえず私用の日本刀とカットラスが取りやすいように位置を調整しておくね。日本刀はさすがに座ったままだと無理かな?」

朱里ちゃんはこちらをからかったあと、ガサゴソと荷物の調整をして座り直していた…毎回毎回動揺するから、からかわれるのだろうが…くそぉ


「準備はいいか?」

「おっけ」

『リュノ、お待たせ。行こうか』

『うん』



 そして朱里ちゃんを背負った状態でたどり着いた冒険者ギルドは、2階建てで1階の階高は5m程あり、周囲の建物に比べ一際大きなものになっていた。建物の素材は石積みで、それを魔法で補強した堅固な造りとなっているらしい。


少し緊張しつつ、リュノと共に建物の中に入ると、こちらを見た冒険者がざわつき、リュノを見て目の色を変え、何かを言ったり、口笛を吹いている者がいた。

…リュノ、見た目はめちゃくちゃ可愛いからな…


喧噪をよそにギルドの中を見渡すと、左手には受付用のカウンターや掲示板が並び、一番手前のカウンターでは狩った獲物を納品している冒険者の姿があった。そして、右手には併設された食堂のようなものがあった。


受付用のカウンターを注意深く見ていたリュノが

『あ、一番奥がギルド登録用のカウンターみたいよ』

と言ってこちらの手を取り、注目やかけてくる声を無視してズンズン進むのに慌てて付いていくと、その先にはキツネのような耳を頭に付けたキリッとしたお姉さんが受付にいた。


『ギルドへの登録ですか?』

『はい、俺一人分をお願いします』

『そちらのお姉さんは…あれ?もしかしてリュノさん?』

『あ、バレちゃいました?羽かくして認識阻害もしてるのにさすがですね』

『私とリュノさんの仲じゃないですか…でもそれならこの騒ぎは収まるでしょうが…リュノさん早く正体現した方が良いかもしれませんよ。今はちょっと五月蠅うるさいのがいますので…』

『ん?』

受付嬢の言葉に俺とリュノが不思議がっていると


『おい!新人がえらい良い装備と女を連れてるじゃねぇか!俺に寄越しやがれ!』

と言う言葉が聞こえ、受付嬢が俺の後ろを見て『あっ!…えぇ!?』という声を挙げると同時に

『ぐぇっ!』

「よし、ホームラン!」

という声が聞こえた。


後ろを振り返ると、なぜか唐揚げのような肉を口に入れて目を白黒させて床に倒れている大男がいた。そして朱里ちゃんはカットラスを頭上でくるくる回して上機嫌だった。

「朱里ちゃん、どういうこと?」

「あぁ、あの大男がわめきながら食べてた唐揚げっぽいのをこっちに投げてきたから、カットラスで打ち返したら、見事口の中にホールインワンだよ!凄いっしょ!!」

「それは凄いけど…怒り心頭じゃない?」


周りでは『おい、勝手に剣が打ち返したぞ!』『魔法か!?』『今揃えたようなピカピカ装備にしては品質良さそうだしな…魔道具かもよ』『どっちにしろ得体が知れねぇ…』『下手に関わらない方が良さそうだな…』

とざわざわしてた。


そうしてると、唐揚げっぽいのを口からべっと吐き出した大男が立ち上がり、顔を真っ赤にして

『てめぇー!!!』

と詰め寄ろうとしたが、リュノがスッと俺の前に立ち、偽装のリュックを消して羽を露わにした。

すると、

『『『フーリル族!!』』』

という驚きの声と共に、

『おい!あの蒼い髪はまさか、蒼の将軍か!?蒼の暴発魔か!?』

『どちらにしても関わっちゃ駄目なヤツだ!!』

『アイツ死んだな…南無』

という声が湧き上がり、大男は真っ青になりガクブルしていた。


蒼の将軍って多分ミズハ近衛隊長のことだろうなー

『リュノさんや、蒼の暴発魔って?』

と小声で聞くと、リュノの表情が固まり、汗がツーッと流れていた。

まぁこの場は収まりそうで良いけど、リュノ、何をしたんだ?

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