第33話 転移先の宿にて

 串焼きを食べながら宿に向かっていると、次第にリュノの機嫌も回復していた。食べ物の力は偉大である(笑)


 そしてその後は特に問題なくリュノの里への転移装置のある宿に到着した。宿の名前は【角羽亭】と言って、1階に食堂が併設されている木造2階建ての建物で、丁寧に手入れされており、木と主人のぬくもりを感じられる宿であった。

宿を経営している(過去にフーリル族とパーティーを組んでいた)和やかな雰囲気の元冒険者夫婦は、旦那がツノスさん、奥さんがコルヌさんといって、ツノスさんは額に1本の大きな白い直角を、コルヌさんは両耳の上に頭に沿って曲がりながら上に向かう紫色の角を持っていた。


その二人のにこやかな出迎えを受けていると、先程厄介事を避けれるように助けてくれた看板娘のコピアちゃんが、帰ってきた。

ちなみにコピアちゃんは、コルヌさんと同じ形でピンクと紫を足したような秋桜コスモス色の角を持っていた。


『上手くいったみたいだね』

『あ、コピアちゃん、ありがとう!助かったよ』

串焼きを十分に堪能して上機嫌のリュノが、コピアちゃんの方に飛んでいき、抱きついていた(ちなみに当初リュノが怒りに任せて全部食べそうな勢いだったので、『私も食べたい』と言った朱里ちゃんの分を、何とか確保してマジックポーチに避難したのだが…なかなか難易度の高いミッションだった…苦笑)


『うんうん、リュノさんのこと(トラブルメーカーっぷり)は良く分かってるので抜かりなく備えてたからね!任しといて!』

『ありがとう!……うん?』


何か引っかかったリュノが首を傾げてる間に


『それよりも1人少なくなってない?朱里ちゃんは?』

とコピアちゃんが話題を変えて聞いてきた。


『あー今後もあるし、ツノスさん一家の3人には、知っといてもらった方が良いよね』


そうして俺と朱里ちゃんの特性や状態を3人に説明した。


すると話を聞いたツノスさんが

『むむ、そうすると朱里さんは透明の護衛ということか…どんな感じになるんだ?……ふむ、ちょうど今は晩ご飯の仕込み前で時間があるな…なぁもし良ければ、裏庭で一つ手合わせしないか?』

と目を輝かせて言い、それを見たコルヌさんは

『あー興味深い相手がいると、仕合をしたがるこの人の悪い癖が…こうなると抑えが効かなくって…現役退いてからは収まってたんだけど…すいません』

と頭が痛いという感じで額に手を当て、申し訳なさそうにしていた。



 朱里ちゃんに確認すると、是非やりたいってことなんで、早速宿の裏庭で立ち合うことになった。

 ツノスさんが宿にあった木刀を2本持ってきて、1本をこちらに渡し、少し離れて1本を持って構えた。…おぉ、これだけで圧が凄い!

渡された木刀にコーティングを施し、朱里ちゃんに渡すと、朱里ちゃんは気負うことなく前に出て木刀を構えて相対した。


『おぉ、本当に木刀だけ浮いてやがる…面白いねぇ、さぁこい!』


呼びかけに応えて、朱里ちゃんがスッと前に出てツノスさんの額を目がけて鋭く突きを放った!

ツノスさんは驚愕したように目を見開き、首をかしげてかろうじて躱すと、突きの後続けて放たれた朱里ちゃんの連撃を、木刀でかろうじて受けていった。


何度目かの攻撃を受け流した後、ツノスさんはたまらんっといった感じで朱里ちゃんの木刀を力任せに強く弾くと、後ろに大きく飛び退いた。

『ぐぅぅ!身体が見えねぇのがこれほど厄介とは…攻撃はできねぇし……あれ?これ俺が打たれるまで終わらなくねぇか?』

荒い息をしながら、ハタと勝ち目がないことに気付き、冷や汗を流すツノスさん


『そういえば終わりの条件決めませんでしたね』

俺がつぶやくと

『いい年して悪い癖を出したこの人を、懲らしめてくれたら良いですよ~』

とコルヌさんはニコニコしていた(こ、こわい…)


さらに膨大な冷や汗を流し表情が引きつったツノスさんに対し、

朱里ちゃんは木刀の位置を固定したまま、先に身体を前に踏み出した!

そして踏み出した勢いのまま、身体の後ろから引っ張り出すように突きを放つと、今までよりも速く、伸びる突きが繰り出された!

かろうじて木刀を当て転がるように避けたツノスさんが、膝立ちの体勢で両手を挙げて降参の意思を示すと、スッと後ろから近づいたコルヌさんが、ツノスさんの頭にズシンッと拳を落とし、立合いは終了となったのだった…



 立合いを終えて、期間準備のため朱里ちゃんに魔力譲渡をしながら、どうだったと聞くと、

『ツノスさん強かった。普通にやったら直ぐに敗けてたと思う。もっと修練しないと……でもふふふっ、一方的に攻撃できるって良いねぇ』

と充実感のあるイイ笑顔だった。

…ヤバい、朱里ちゃんのSっ気に磨きがかかる!?

何か背筋がゾクッとしたんだけど…


そうしている内に復活したツノスさん(たんこぶ付き)に感想を聞くと、

『身体の動き、目の狙いが見えねぇから予測がつかねぇ!反応が遅れてしまう!それらによるフェイントはなくなるが、攻撃もできないから牽制もできないし。踏み込みの音や気配もないから死角から来られたら防ぎようもない。とにかく厄介過ぎる!』

とのことだった。あと、最後の突きは朱里ちゃんの間合いを知ってるだけに完全に予想外で、やられちまう所だったと大絶賛だった。

普通身体を先に突っ込むなんてことはできないしね。

ツノスさんは仕合後に朱里ちゃんに気付いたことや実戦で有効な連撃の技などを教えてくれたのだけど、そこで通常では考えられない刀の動きを連撃の中にも組み込めるとより厄介さが増えるなってことで、一緒に考えてアドバイスを貰うことができた。



ちなみに、そのアドバイスをしてもらっている間に、俺もコルヌさんとコピアちゃんに防御の仕方を教えてもらったんだけど…素人なのでまずは慣れるころが大事ってことで、コルヌさんの指導(スパルタ)のもと、コピアちゃんにボコボコにされたのだった…

ぐえぇぇ…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る