第50話 結界再構築に向けて

 イノシシ族の大軍が近づいて来ているとの報を受けて里長が指示を出し、直ぐにお屋敷の周辺にいた守備隊を、猪族が来る方向の里の前面に配置した。


『このタイミングで来るということは、今回はあいつらの仕業か!』

『一体どうやって?』


騒がしくなる周りに対し、フラウ姫が

『今は方法究明よりも、準備を整えることが大事です!』

と治めたあと

『…カズマ様すいません、危険が迫っているようです。あちらが来る前に結界を構築したいのですが……いえ、危険に巻き込む訳にはいきませんね。結界は今私が出来る範囲で応急措置を行いますので、カズマ様とアカリさんは、リュノと共に今のうちに元の世界にお戻りください』

と伝えてきた。


『わ、私も里を守る!』

『リュノ、この先のフーリル族や里の建て直しをする上で、カズマ様との繋がりを確保するのが重要なのです…それにカズマ様とはなばなれになるのも苦しいでしょう』

『うぅ…』


これはっ…リュノを見ると苦しげな表情をしていた

…ここでやり切る前に元の世界に逃げると、絶対に後悔することになるな

『いえ、結界が間に合う可能性があるならぐに行きましょう!朱里ちゃんは…』

『和真君が残るなら私も残るよ!それに多分もう直ぐ魔力譲渡が切れて、攻撃が当たらなくなるしね!』

『カズマ…アカリちゃん…』

朱里ちゃんと決意を込めて頷くと、リュノの目から涙がこぼれていた



『…分かりました。押し問答する時間もないですし、本当にありがとうございます!でも危ない状況になったら直ぐに避難して下さいね。ミズハ、今から向かうので護衛の編成を!』

『はい姫様、まず私が一緒に参ります。副隊長はこのお屋敷にいる皆様の守護を任せます。私の他には姫様、カズマ様、アカリさんに近衛隊をそれぞれ2名付けます。あとはリュノも行きますね?』

『うん、行くよ!』

そうしてミズハ隊長が隊員を呼ぼうとすると、朱里ちゃんが手を挙げて

『あ、私には護衛要らないよ!そもそも私は和真君の剣であり護衛だしね!護衛に護衛は変でしょ』

と伝えていた。

『いやしかし、アカリさんに何かあっては…』

『大丈夫。そろそろ無敵になるし。それに剣として自由に動きにくくなるしね』

『…分かりました。カズマ様もそれで良いですか?』

『はい、朱里ちゃんが良ければそれで大丈夫です。よろしくお願いします。あっそう言えば、護衛戦力として、ナンタム族のモナカも居ますので紹介しておきますね』


そう言ってモナカを手に取ると、モナカはもふもふのボールの擬態を解いて、ぴょんと俺の肩に乗って

『ワタシ、モナカ!ヨロシクネ!』

と手?を挙げて挨拶した

『ナンタム族!?』

『しゃべったー!!?』

『これは、一体どういう?』

『カズマノ、マリョクデ、シンカシタノ!』


『えーっと、詳しい話は移動中にでも。まだ従魔契約はしてないけど、俺を裏切ることはないし、信頼できます』

『とりあえず私の魔法やアカリちゃんの攻撃もある程度防げるようになったから、戦力になると思うよ』

『わ、分かりました。カズマ様が良ければそれで行きましょう……それにしてもカワイイですね。あとでしっかり紹介してください』


 フラウ姫がモナカをつんつんと触ると、モナカもプルプルと応えており、その様子が琴線に触れたのか、フラウ姫はつかの間相好を崩していたが……名残惜しそうに気持ちを切り替え、キリッとした表情に戻っていた。


『では行きましょう!』

『はい!あっ出発前に魔力を込めた食材を渡しておきます!それと今の内にリュノとミズハ隊長、魔力の補充しておきますね!』


 そうしてマジックポーチから出した食材を朱里ちゃんが宰相に説明しながら渡している間に、ミズハ隊長とリュノに消費した魔力を充填し、結界の魔道具の設置場所に向けて出発した。



 モナカの説明をしながら結界の魔道具に向かって走って(フーリル族は飛んで)いると、

「あ、念話が途切れた。魔力充填の効果が切れたみたい」

と朱里ちゃんがつぶやき、

走りながら一瞬で上着とスカートを脱ぎ去って、下着姿になった!


「『えぇぇー!!』」

思わず叫ぶと、注目を集めたのだが、脱いだ服を手に持つ朱里ちゃんの姿が見えないようで、納得した感じで浮いた服と朱里ちゃんの足に合わせて動く靴に注目していた。


朱里ちゃんは下着姿で併走しながら、

「マジックポーチに仕舞っといて」

と脱いだ服をこちらに渡してきた。


「仕舞うのはいいけど、朱里ちゃん、コーティングしてない服出すから着て!」

「今回は脱ぎやすい前開きシャツとラップスカート(巻きスカート)を着てたから脱ぐのは簡単だったけど、入れてある服を走りながら着るのは無理だなー。目的地に着いたら靴と一緒に出して」

「じゃ今脱がなくても良かったやん!?目に毒なんだけど!」

「えーいつ敵に会うか分からないし、見えない方が良いでしょ。あ、和真君が服出さなかったら私ずっとこのままの格好だねー。触っても他の人には気付かれないし」

ぐぬぬっ!ニマニマした顔で、寄せて上げるんじゃない!

動揺してこけそうになったし!

「分かった。着いたら直ぐに出すから!」


ったく、それどころじゃないのに。でも緊張は解けたかな…



 その後モナカの説明も終え、しばらく走った。

…足下の悪いところで俺が遅れ始めたので、近衛隊の人達に抱えて運ばれ、朱里ちゃんにいじられたが…いや追走できる朱里ちゃんがおかしいんだって。それと下着姿でぴょんぴょん跳ねて煽るんじゃない!



 そうして、フラウ姫が

『もう直ぐ着きます!』

と声を挙げ、速度を緩めようとしたとき、

『クククッ、やっぱりフラウ姫が来たな』

と野太い声が聞こえ、巨大な人影が立ち塞がったのだった!!

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