第25話 お屋敷にて

 お屋敷に入ると、20人程が食事を取れる広間に通された。

 広間には格式高いオーラを持つ年配の男性が杖に体を預けた状態で立っており、笑顔で出迎えてくれた。またその側には小学校低学年くらいの男の子がいた。そして、

『ようこそお越し下さいました。私はこの里の長であるカルム・ノワ・フーリルと申します。またこれは息子のカークと言います。

本来は私が広場でのお出迎えに参列すべきなのですが、私の体が少し不自由なため、娘に任せる形となりました。申し訳ありません。

カズマ殿にはリュノを救って頂いただけでなく、里の危機も救うべく援助して頂けるとのことで、本当に感謝しております。私どもの出来得る限りのことをさせて頂きますので、よろしくお願いします』

と言って頭を下げた。


いやいや、急いで頭を上げてもらったけど、里長は姫様と同じく、物腰が柔らかくて非常に気さくな方だった。

息子のカークは落ち着かずにバタバタしてるし、やんちゃ盛りっぽいけど。

(なお後で聞いた話だけど、どうやら里長の妻でありフラウ姫達の母である方は、病弱であったため、残念なことに既に亡くなっているとのことだった。)

 挨拶の後、カルム里長・フラウ姫・息子のカーク・家老(立派な服を着た威厳のある人)・ミズハ近衛隊長・ダガト攻撃隊長・守備隊長(巨漢で寡黙かもくな人だった)と俺・朱里ちゃん・リュノが長テーブルの席に着き、和やかに情報交換をした後、持ってきた食材の説明を始めることになった。



 そして、その説明をしている最中に朱里ちゃんの姿が消えて服だけになり、元々話していた事とはいえ広間は驚きの声に包まれた。


 俺と朱里ちゃんには目で見える状態が変わらないため、周りが騒いで状況が分かるまでに一呼吸遅れたが、その間に息子のカークがダダッと席を立って朱里ちゃんの側に来た。

そして羽を使って飛び上がると、朱里ちゃんの服の上、首がある辺りに手を伸ばし

『ホントに見えねぇ!触れねぇ!』

と言って、伸ばした腕を首や顔がある辺りでぶんぶん振っていた。


…朱里ちゃんが自分の顔をすり抜けていく腕に表情を引きつらせているよ。


 周りの大人が『止めなさい』と言うが、興奮してしまって聞こえない息子のカークは、朱里ちゃんのシャツの首元からシャツの中に手を突っ込むと、手をぐるぐる回したあと、シャツの裏から手の平を押しだして、シャツを手の平の形に盛り上がらせていた。

「ちょっ、ととっ!」

…朱里ちゃんが服に首や背中を引っ張られて声を出したけど、カークにも俺以外の周りの人にも聞こえてなさそうだな。とゆーか、がきんちょはやっぱ大胆だなー…俺には朱里ちゃんも息子のカークも両方見えてるから結構凄い絵面だけど…


さらにカークは朱里ちゃんのシャツを外からわしっと触った。一番シャツが前に盛り上がっている掴みやすいところを、ってその位置は…

「うひゃあ!」

『すっげ!中は素通りするのに、外からは何かあるのが分かる!おもしろ!』

そう言うとカークは左手を中からぐるぐる回し、右手はもみもみと…


「あん、ちょっ、ん!」

朱里ちゃんは自分の手でカークの右手を抑えようとしたけど、素通りしていた。


子供のやることだし、俺が手を出して止めて良いのか悩んだので今まで動かずにいたけど、さすがにこれは止めさせようと立ち上がりかけたところ

『こら!カーク!止めなさい!』

と慌てて側に来たフラウ姫がカークを引き剥がして止めさせていた。


…良かった収まりそうだなと思っていると

『そうは言うけど、凄いぞ姉ちゃん!ほら!』

と言ってカークはフラウ姫の手を朱里ちゃんの方へ持っていった。

すると元々好奇心旺盛なフラウ姫も手が触れたことで、思わず興味深く朱里ちゃんを調べてしまっていた。

『あ、確かに直接は触れないのに、服があるとアカリさんを感じられるのですね…不思議な、それに何て柔らかくて気持ちいい…って、はっ!?私ったら…すいませんアカリさん!!』

フラウ姫は止めにきた自分までしてしまったことと、どこを触っていたかに気付いて、顔を赤くしながら頭を下げていた。そして、カークにも頭を下げさせていた。


朱里ちゃんに大丈夫か確認すると、

「う、うん、ちょっとびっくりしたけど。フラウ姫に大丈夫って伝えて」

と言ったあと、笑みを浮かべていので

「『フラウ姫、カーク君、朱里ちゃんが大丈夫と言っています。笑みも浮かべていますので気にしないで下さい』」

と伝えた。すると

『本当にすいませんでした、ありがとうございます』

『すいませんでした』

とフラウ姫とカークが再び深く頭を下げ場が収まり、周りはホッとしたのだった。



「『でもそうか、コーティングした俺達の服とかを通すと間接的に触れるんだね』」

「私も知り合いが服だけになって歩いてたりしたら、ペタペタ触ると思うし、このまま居ると他にも触られそうだよね……がきんちょとかに囲まれたらヤバいことになりそうだし……脱ごうかな?」


そう言うと朱里ちゃんはシャツに手をかけて脱ごうとしだした

「『ちょっと待って!』」

慌てて止めると

「大丈夫よ、コーティングは一番上の服だけだから。それに見えるのは和真君だけだし。あっそれとも和真君は私の真っ裸まっぱを期待してた?そうして欲しい?」

と言ってきた。

…なっ何だと!朱里ちゃんがそんな姿になっても俺だけしか見えないからセーフなのか!?

俺が激しく動揺して朱里ちゃんを見ると、すっごくニマニマしていた。

……またからかわれてるよ。


とりあえず、リュノのマジックバックから朱里ちゃんの着替えを入れた箱を出してもらい、朱里ちゃんには俺の目が届かない隣の部屋で着替えをしてもらうことにした。

そして、朱里ちゃんに着替えに行ってもらうと、しばらくしてから

「ひゃああぁぁーー!!」

という朱里ちゃんの悲鳴が聞こえたのだった!

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