第32話 こんなに需要のない特権みたことねえぞ。
俺とレイはアジトへと向かっていた。
今頃あいつら何してるんだろうなぁ....。
「アレス、危ない。」
「ん?」
ドンッ
「きゃっ!」
「おおっと、すまないな。大丈夫か?」
謝りながら手を差し出す。
「全く...気をつけなさいよね!」
「いやあ、ちょっと考え事をしていてな.....ん?」
ちょっと待って、なんかすごい見覚えある顔なんだが....
やべえ、逃げよう。
少女を起こしながら俺は顔を背ける。
「んじゃ、俺達はこれで....。」
「待って!ついでに聞きたいことがあるんだけど....。あんた達、【紅】のアジトの場所を知らない?」
「いやぁ、知らないなぁ....。」
「そう....ちなみにアレス=エングラムって名前知ってない?」
えぇっ、どうしよう、めっちゃ話しかけてくるやん。
「あっ、アレス?知らない名前だなぁ....。悪いが先を急いでいるのでな...、行くぞ、レイ。」
逃げるが勝ちぃぃぃ!!
ん?あれ?
「すまないが放してくれないか?」
「ちょ~っと、顔を見せてくれる?できれば正面から。」
「それは...できない。」
くっそ、立ち去りたいのにこいつ力強ええ!
「ふ~ん、できないんだ。何故かしら?」
「それはそのぉ....。」
「あんたアレスでしょ!」
案の定ばれたぁ!
なんでだ....
「なんでばれたのかって顔してるわね。一緒にいる女の子見ればわかるわよ!しかもその子の事『レイ』って呼んでたし!」
うわぁ、やっちまったぁ。
俺のバカァ...。
どうする?考えろ俺!
「おーい、アリサここにいたのか。」
「探しましたよ。こちらは何も収穫無しです....。そちらはどうですか?」
あー、終わったわ。
追加で2人入りまぁーす!
....現実逃避するな俺、何とかしろ。
「セリス、ヘレナ、こっちはとっても大きな収穫があったわ。」
アリサが悪魔みたいな顔をしてこちらを見ながら言う。
「本当か!?」
「まさか【紅】のアジトの場所がわかったのですか!?」
やばいやばい....二人が近づいてくる....
「いいかレイ、俺が『魔族だぁ!』って言ったら全力で逃げるぞ。」
「聞こえてるのよ!絶対に逃がさないから!」
ええい、俺の命もここまでか....
「....『フラッシュ』。」
『!?』
「アレス、今のうち。」
勇者パーティーが動揺している隙に、俺達はアジトに向かって駆け出す。
目くらまし、古典的な手法だが役に立つ。
「いやぁ、助かったぜレイ。」
「気にしなくていい。」
案外コイツと行動するのもありかもしれない。
いざというとき助けてくれるし。
こうして俺達は無事アジトに着くことができた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アリサ、さっきの光は?」
「大丈夫ですか?」
「っ、逃げられた....。」
「いったい何があったんだ?」
「さっきアレスを見つけたのよ。」
「アレスさんを!?それで彼はどこに?」
「隙をつかれて逃げられたわ。あのバカ、話くらい聞かせなさいよね....。」
「そうだったのか....。しかし残念だが今日はもう遅い、一旦帰ろう。」
「そうですね、それにこの街にはいるみたいですし、また会うことがあるかもしれません。焦らなくても大丈夫なはずです。」
「そうね。次は絶対に逃がさないわ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コンコン
「入れ。」
「ボス、今帰ったぞ。」
「アレスとレイか、遅かったな。」
「ちょっとトラブルがあってな、まあ何とかなったんだが。」
「そうだったのか。ところでレイ、今日はどうだった?」
「楽しかった、また行きたい。」
まあ、楽しくはあったがしばらくはごめんだな。
なんたってまたあいつらに遭遇したら困るし。
「そうか、良かったな。そういえば....。」
「ん?何かあったのか?」
「ああ、実は組織の諜報員から1つ知らせが来てな。なんでも勇者パーティーがアジトの場所を聞いて回っているらしい。」
「おいおい穏やかじゃねえなぁ。」
そういえば今日俺もアリサに聞かれたな。
「穏やかじゃないってお前なぁ....どう考えてもお前のせいだからな?」
ですよねぇ....
今後も警戒が必要だなこれは。
「しかしあいつらそこまでして俺を捕まえようとするとは....。よほど俺に執着があるようだな。」
「まあお前の過去の行いを見れば当然の事だろうな。」
え?なに?まさか....
『賃金分の仕事してないんだから金返せ!』
ってこと?
それはちょっとねぇ....
「あいつらには悪いが、俺はもう振り返る気はない。」
悪いけど俺絶対に金返さないよ?
もともと楽して稼げるからパーティー入っただけだし。
「それがお前の覚悟か。まあ組織としても何か情報が入れば共有しよう。」
「助かる。」
「それと、これが今日の報酬だ。」
パッと見20万ゼピスと言ったところか。
遊んでこれだけもらえるのは美味いなぁ。
「ああ、それと。」
「何だ?」
「お前がこの街にいることを知られた以上、勇者パーティーとの接近は避けられないだろう。しばらくは変装でもした方がいい。」
うーむ、確かになあ。
とりあえず髪の色を変えて....
「これでどうだ?」
「あとは服だな、そんなもの着ているのはお前ぐらいしかいない。ここに組織で用意した服がある。これを着るといい。」
え?俺ぐらいしか着てないって、もしかして俺の服ディスられてる?
これでもオーダーメイドなんだけどなぁ。
「また何か仕事を任せる時は人を送る。それまでゆっくり休むといい。」
「了解だ。」
ボスの部屋を後にし、俺は組織の更衣室に向かう。
「んじゃあ、ちょっと着替えてくるわ。」
「ん。」
さてと、まずは上を脱いでっと....
ん?
「なぁ?」
「何?」
「頼むから外で待っててくれないか?」
「私は気にしない。」
「うん、俺が気にするね。」
強引に更衣室からレイを追い出すとようやく俺は着替えに勤しむことができた。
にしても結構質感のいい服だな。
とりあえずさっきまで着てた服は魔法で綺麗にして収納しとくか。
「これで良しっと。」
着替えを終えて更衣室から出る俺とレイ。
ん?レイ?
「おまっ、結局いたんかい!俺がお前の気配を察知できないのをいいことに....。」
「私の特権。」
要らねえ特権だなぁ...
こんなに需要のない特権見たことねえぞ。
「なんかもう疲れて言い返す気も起きないから帰るぞ。」
隠れ家に帰った俺が熟睡したのは言うまでもない。
レイ『変装したアレスの寝顔....これもいい。』
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