第8話 たまにはシリアスな展開があってもいいよね

「さて、今回の依頼場所はミネルネ高原の先にある、ユッケ村だ。」


「なんでも、最近村の畑を荒らすモンスターが増えていて、村の冒険者だけでは対処しきれないとのことです。しかも、中には大型のモンスターもいるとか。」


「かなりの数がいるってことね....。」


ふーむ、ユッケ村かあ。

確か姉さんがそんな名前の村に移住したって聞いたような....。

まさかな。


・・・・・・・・・・・・・・・・


時は数十分前にさかのぼる。


俺達はギルド支部長から指名の依頼を受けていた。


「実は君たちに指名の依頼があるんだ。」


「指名の依頼?私達にか?」


「ああ、ミネルネ高原を進んだ先にあるユッケ村で異常事態が発生しているらしくてな。君たちに対処をお願いしたいとのことだ。」


「指名の依頼なんて余程のことね。」


「ええ、しかしユッケ村でいったい何が....。」


「細かい依頼内容はここに書いてある通りだ。健闘を祈る。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・


そして今に至るわけだが.....


「ユッケ村、一体どんな村なのかしら?」


「聞いたところですと、農業が盛んで、中でもトウメイトゥーが有名だとか。」


トウメイトゥーか、よく母さんがツィキンのトウメイトゥー煮込みを作ってくれたっけ。

あれがまたうんめえんだよなあ。


「今回荒らされている畑も、トウメイトゥーの畑なのか?」


セリスが問う。


「おそらく。最近市場にでまわっていないことを考えると、その可能性が高いかと。」


なんてことだ、罪なきトウメイトゥーの畑を荒らすなんてけしからんモンスターたちだな。

許せねえなこれは。


「モンスターの増加に加え、大型モンスターの出現、なかなか厄介だな。」


「大丈夫よセリス、あたしたちは勇者パーティーなんだから。」


「そうですね、それにアレスさんもいますし。」


任せろ、どんなことがあっても、トウメイトゥーは必ず俺が守る。

だからモンスターの退治はお前らで頑張ってくれ。



・・・・・・・・・・・・・・・・



そんなこんなで歩くこと30分、俺達はユッケ村に到着した。


「ここがユッケ村....一見のどかのどかなところのようですが.....。」


「とりあえず村の人に話を聞いてみよう。」


「そうね、何か情報を得られるでしょうし。」


さてさて、おっ、第一村人発見じゃん。

早速セリスが声をかける。


「仕事中済まない、我々はギルドから指名の依頼を受けてきた者たちなのだが、少し話を聞かせてもらえないだろうか?」


「あら?勇者パーティーの皆さん?それにそちらの方は....。」


「ピーター=ピーターと言います。以後お見知りおきせずに忘れてください。」


やっべええ!まさかとは思ていたけど、本当にこの村に姉さんがいるとは!

しかもよりにもよって第一村人かよ!

世間って狭いなあ。


「ピーター...いえ違うわ、この香り....間違いないわ!あなたアレスくんね!」


えええええ!?

匂いでばれた!?

俺そんなに特徴的な匂いしてるの!?


「何だ?アレス君の知り合いか?」


「ああ、一応これでも....」


むぎゅっ


唐突に視界が暗くなる。

何が起きた!?


「アーレースく~ん!会いたかったよお!」


「ちょっ、姉さん、前が見えない....。」


「な、あんた何してるのよ!離れなさいよ!」


痛い痛い、おいアリサ、俺を引っ張るな。

頼むから姉さんの方をどうにかしてくれ。


「あっ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私はテレス、テレス=エングラムよ。アレスくんは私の義理の弟になるわ。」


「義理の弟....養子ですか?」


「ええ、アレスくんの両親は冒険者だったの。彼が小さいころにダンジョン攻略に失敗して亡くなってしまったけれど。そして一人であてもなく彷徨っていたところを私たちが保護したの。」


そう、俺はあの時無力だった。

両親を亡くし、行く当てもなかった俺を助けてくれたのが姉さんたちだった。

俺はそれ以来、力を求めて色々な訓練をした。

もう二度と、大切なものを失わないために。

そして今、【紅】のメンバーとして働くことが許されている。


「アレス君にそんな過去があったとは....。」


「何と言っていいか....。」


「.........。」


「過去の話だ、気にしなくていい。」


今となっては気にしていない。

気にするだけ無駄だしな。


「ごめんなさい....。」


「どうしたアリサ急に、何か悪いものでも食ったのか?」


生ものでも食って腹でも壊したのか?


「そうじゃなくて....あんたにそんなことがあったなんて....知らなかったとはいえ、失礼なことをしてしまったわ。」


「何だそんなことか。」


「そんなことってあんた!」


「さっきも言ったが、気にしていない。それに今の俺には組織のメンバーだけでなく、お前たちがいる。もう一人じゃない。それだけでも充分幸せなんだ、俺は。」


「アレス....。」


「アレス君....。」


「アレスさん....。」


いつも俺を揶揄っていると思っていたが、案外コイツらいい奴なのでは?

それよりも依頼のことを聞かないとな。


「それよりも姉さん、俺たちがギルドの依頼できたってことは聞いたよな?村の状況について教えてくれないか?少しでも情報が欲しい。」


「分かったわ。私の家に来てちょうだい。そこで詳しいことを話しましょう。」


・・・・・・・・・・・・・・・


俺たちは姉さんの家に向かい、事の詳細を聞いた。


「つまり、畑を荒らしているのは普段見かけないモンスターだと?」


「ええ、この村の周辺で出るモンスターは大体がC級なの。でも、モンスターを見た人たちはみんな『あんなモンスター見たことない。』っていうのよ。」


「大型のモンスターが出たという噂も耳にしたのですが、何か心当たりは?」


「そこまでは分からないわね。でも最近夜になると山の方から大きな鳴き声が聞こえるのよ。」


「大きな鳴き声ですか?」


「まるでイノシシみたいに『フゴッ』とか『プギィ』てね。」


なるほどイノシシ系のモンスターか、確かにこの辺ではあまり見ないモンスターだな。


「ヘルボアーね。」


「アリサ、知っているのか?」


「夜になると人里に降りて作物を食い荒らすのよ。奴らは集団で行動する習性があるんだけど、鳴き声はそんなに大きくはないわ。つまり、その声の主はその群れのボス、ジャイアントヘルボアーのものだと思うわ。」


ジャイアントヘルボアーか、あいつの肉うめえんだよなあ。

せっかくだし、討伐したついでに肉をいただくとするか。

やべえ、よだれが....。


「目標の討伐は今夜だ。今回は数が多いのもあって耐久戦になるだろう。みんなそれまでゆっくり休んでくれ。」


「わかったわ。」


「了解しました。」


・・・・・・・・・・・・・・・・


みんなが談笑するのを見ながら俺は、考え事をしていた。

まさかずっと一人だった俺が、勇者パーティーに入ることになるとはな。

改めて夢なんじゃないかと思う自分がいた。


すると姉さんが声をかけてくる。


「まさかアレスくんが女の子を連れてくるなんてね。しかも3人も。アレスくんも隅に置けないなあ(笑)」


「そういうんじゃないよ、ただのパーティー仲間ってだけ。それ以上でもそれ以下でもない。」


なんなら信用されてないまであるしな。


「ふうん、どうだかなあ。でもこれだけは覚えておいて、あなたは一人じゃない、あの子たちもそうだけど、私もいるんだから。」


「分かってるよ。ありがとう姉さん。」



こうして俺たちは夜が来るのを待った。








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