第9話 こいつは冷める前に食わないとダメなんだ

夜を迎えた俺たちは、作戦を練っていた。


「山から下りてきたヘルボアー達は私達で抑え、トウメイトゥーの畑に行ったものはアレス君が討伐。そしてジャイアントヘルボアーが出てきたら、陣形を整え、一気に討つ。群れのボスがいなくなれば、奴らもおとなしくなるはずだ。」


「そうね、それが一番確実でしょうし。」


「ジャイアントヘルボアー.....一応A級のモンスターですが、注意しましょう。」


「トウメイトゥーの守りは俺に任せてくれ。」


俺は、トウメイトゥーを守る。

そう、それだけだ。


・・・・・・・・・・・・・・・


しばらく待っていると、奴らは現れた。


『フゴッ』

『プギィ』


「現れたな。みんな行くぞ!」


「ええ!」


「はい!」


3人とも戦闘態勢をとる。


「スラッシュ!」


「ウィンドカッター!」


「ホリーランス!」


一方俺は、トウメイトゥーを見ていた。

あのトウメイトゥーめっちゃ熟れてるなあ。

きっとツィキンのトウメイトゥー煮込みにしたらバカ美味いぞ。


そんなことを考えていると、その時は突然来た。


「アレス君!そっちに行ったぞ!」


ん?なんだって?

ああ、ヘルボアーね、とりあえずよけてっと.....。


するとヘルボアーは俺に目もくれず、俺が見ていたトウメイトゥーを食い始めた。


『むしゃむしゃ、プギィ!』


はぁああああああ!?

コイツ....俺が食べる予定だった熟れたトウメイトゥーを我が物顔で食いやがって....!

何て深い業だ!ぜってえに許せねえ!

あああああああああ、もうプッチーン。

コイツはもちろん、群れのやつら、そして群れのボス、根こそぎぶっ殺してやらあ!


『神速』


俺は、トウメイトゥーを食いやがったヘルボアーを滅多切りにして、ついでに畑に来る前のヘルボアー達も一掃していく。

セリス達には悪いが、俺はもう色々吹っ飛んだから遠慮なくやらせてもらう。

罪のねえ者(トウメイトゥー)を今まで散々好き放題に食ってきたその業....。

俺がまとめてトウメイトゥーの恨みを晴らしてやる!


「うおらあぁぁぁぁぁぁぁ!死にさらせぇ!」


「あいつ、いったいどうしたのよ....。」


「よくわからないが、もしかしたら自分の義姉に危害が加わる可能性があると思い、憤怒しているのかもしれないな。」


「自分を助けてくれた恩人である義姉さんを助けるためだなんて、なんて情に深い人なのでしょう。」


よし、とりまあらかた片付けたな。

あとは、ジャイアントヘルボアーだけといったところか。

俺自らの手で葬り去りたいところだが....。

セリス達にも戦ってもらい経験値を獲得してもらわないと、グレータータイガーの時みたくレベル差で.....みたいなことあると今後困るしな。


『フンゴォォォォ!』


ようやくお出ましか。


「セリス、アリサ、ヘレナ!俺のこの湧き上がる(トウメイトゥーの)怒りの分まであとは任せたぞ!」


「ああ、アレス君のその(義姉を)守りたいという気持ち、無下にはしないさ。」


「あんたに言われるまでもないわ。でもあんたの(義姉を)大切にしようという気持ち、確かに受け取ったわ。」


「アレスさんのその(義姉への)想い、無駄にはしません。」


みんなもトウメイトゥー畑を荒らされて怒ってんなあ。

当然だ、あんな美しい赤の艶やかなボディをヘルボアーごときに汚されたんだからな。


「俺が指示を出すから、その通りに戦えば必ず勝てる、いいな?」


『了解!』


『プギイイイィィィィィィ!』


「ヘレナ、まずはみんなに身体強化魔法だ。」


「分かりました。この者たちに祝福を、身体強化!」


「アリサ、同時詠唱は可能か?」


「当たり前でしょ!」


「よし、そしたらファイヤーストームとウィンドウェーブを同時に詠唱だ。奴に与える隙が大きくなる。」


「わかったわ!ファイヤーストーム!ウィンドウェーブ!」


「セリス、聖剣エクスキャリバーンで上にたたき上げ、グラビティスラッシュでフィニッシュだ!」


「了解した!はあぁぁ!せい!グラビティスラッシュ!」


『フンゴォォォォ......』


ドサァン!


うん、やはりな。

勇者パーティーのメンバー全員、カンパイーン洞窟の時より明らかに強くなっている。

俺を除いて.....。

てか大丈夫か?荷物持ちがいっちょ前に指示なんか出して....。


「アレス君の的確な指示で何とか勝てた、ありがとう。」


「そうね、あんたのおかげじゃなくはないかも。」


「アレスさんの力に頼らずに倒すことができました!」


まあなんか怒られてはないみたいだし、良しとするか。


こうして一夜のヘルボアーとの戦闘は幕を閉じた。



・・・・・・・・・・・・・・・


翌日....


「勇者パーティーの皆様、先日の夜は本当にありがとうございました。村を代表してお礼を申し上げます。ささやかではありますが、宴の準備ができております。是非参加していってください。」


「分かった、ご厚意に甘えるとしよう。」


「お腹すいてたのよね。」


「ありがたく参加させていただきますね。」




みんなが宴を楽しんでいるころ、俺は一人離れた場所で空を見上げていた。



「あら、アレスくん、宴に参加しないでこんなところで何してるの?」


「姉さん!?いやあちょっと人酔いしてね、うんそう、人酔い。」


「あらあらそうだったのね。それより見て、お姉ちゃん頑張ってツィキンのトウメイトゥー煮込みを作ってみたの。」


「なっ!?俺の大好物じゃないか!?姉さん作れたの!?」


「いつか、アレスくんが来た時のために練習していたのよ。」


「いい匂いだ!早速頂き....。」


「アレス!」


「アレス君!」


「アレスさん!」


「みんな?どうしてここに?」


宴を楽しんでたんじゃないのか?

もしかして人酔いした?


「どうしてじゃないわよ!あんたの姿が見当たらなくて村の人に聞いてきたのよ。」


「アレスさんがこちらにいると聞いて参りました。」


「主役のアレス君がいないんじゃ盛り上がらないだろう?」


こいつら....


思うことは色々あるが、すまない、今はツィキンのトウメイトゥー煮込みを食わせてくれ。

冷める前に食わないとこいつはダメなんだ。


仲間を横目に俺はツィキンのトウメイトゥー煮込みを食べる。

少し冷めているのに懐かしいその味は俺の心を揺さぶった。


「アレスくん、泣いているの?」


俺が泣いている?

そんなことありえないはずだ。

しかし確かにその雫は俺の目からこぼれていて....。



勇者パーティーの仲間、組織の連中。

色々あるけど、みんないい奴らだ。


「父さん、母さん、俺もう一人じゃないみたいだ。」


そう呟くと、なんだか一瞬だけ風が少し強くなった気がした。




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