第13話 絶対に負けられない戦いがここにある
組織へと到着した俺は、急ぎボスのいる部屋に向かった。
「突然済まない!」
「どうしたんだアレス、珍しく慌てているようだが。」
「カーペントはどこにいる?!?」
「カーペント?ああ、レイのことか。あいつなら訓練場にいるぞ。」
「ありがとう、この礼は必ずする!じゃあ俺はこれで!」
「おい!はぁ、全くあいつは何を考えているんだ....。」
・・・・・・・・・・・・・・・
訓練場に着いた俺は、彼女を探していた。
「あいつ、一体どこに....。っ!?」
急に背後から抱きしめられ、驚きながらも、恐る恐る後ろを見ると、そこにはヤツがいた。
「アレス、会いたかった。」
彼女の名はレイ=カーペント。俺と同期の組織のメンバーの一人だ。だがどうにも俺は彼女が苦手だ。
理由は3つ。
まず何を考えているかわからない。
次にこいつだけは気配を察知できない事。
「アレス?どうかした?」
「あのなあ、カーペント、お前.....。」
「レイ。」
「ん?」
「私のことはレイって呼んで言ったはず。ちなみにこれを言うのは今回で734回目。」
3つ目にこいつは俺に対する距離感がエグい。
彼女じゃねえんだから。
「レイさんや、もしかしなくても昨日俺たちの屋敷に忍び込んで、俺の作ったプルィン食ったよな?」
「『さん』はいらない。確かに行った。プルィン美味しかった。」
「お前やってること完全に泥棒だぞ?」
「どうして?」
「どうしてって、お前なあ.....。」
「私とアレスの仲、気にすることじゃない。」
うん、そういうとこだぞ。
俺とお前の仲っていったって、ただの同期ってだけじゃねえか。
「1つ、誤解を解いておきたい。」
「誤解?」
「ああ、俺とお前は同期ってだけで別に特別な関係じゃあない。」
「それは違う。」
「んんん?」
「アレスは前に言ってた。『俺とお前はパートナーだ。』って。」
それ初任務の時に言った言葉だね。
完全に違う意味にとらえちゃってるね。
「あのな、カーペント。」
「レイ。これで735回目。」
「ンッンン、あのなレイ、それは『初任務一緒にがんばろー』的なノリで言っただけであって、他意はないんだ。」
まあ、ノリで誤解させるような言葉を言った俺も悪いんだけど。
「じゃあ勝負して。」
「勝負?」
「私が勝ったらアレスは私のもの、私が負けたら私はアレスのもの。」
「それ俺にメリットなくね?じゃあこうしよう、俺が勝ったらお前は俺の友人。どうだ?」
「友人.....。わかった。絶対に負けない。」
こうして俺の人生をかけた戦いが始まろうとしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
組織アジト内ボスの部屋付近にて.....
『おい、聞いたか?組織のナンバーワンが試合するんだってよ。』
『マジかよ?誰とやるんだ?』
『なんでも同期の女の子らしいが.....実力は組織の中でもトップクラスらしいぜ。』
『こりゃあ見に行くしかねえな!』
「アレス、お前は一体何がしたいんだ.....。」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「約束は守れよ?」
「わかってる。」
こういう素直なところは良いんだけどなあ。
「それじゃあ始めるか。」
「待って。」
「どした?」
「アレスのその刀.....使ってみたい。」
「ん?俺のこのデシュバリマリク.....ブーヴィーを使ってみたいのか?」
「うん。代りに私の剣を貸す。」
んー、普段剣は使わないんだが....。
まあ別に構わんか。
「いいだろう、ほれ。」
俺はレイにブーヴィーを渡す。
「ありがとう。はいこれ。」
ほほ~う、この剣なかなかの業物だな。
ブーヴィーには及ばないが。
「こっちは準備オーケーだ。いつでもいいぞ。」
「行く。」
すさまじいスピードで俺に迫るレイ。
この試合、一見レイの気配を察知できない俺の分が悪いように思えるが....。
「ここ。」
「甘いな、そこを狙うことは想定済みだ。」
彼女とは何度か裏の仕事を一緒にやっているため、彼女の戦い方はそれなりに理解していた。
「流石アレス、スキルもなしにこのスピードに反応できるなんて。」
「生憎俺はまだ全力を出していない。でもそれはお前も一緒だろ?勝ちたいなら全力で来い!」
なぜだかわからないがこの勝負を楽しむ自分がいた。
最近ストレスたまってたからかなあ。
「わかった。今度は殺す気で行く。」
『神速』
俺も合わせてスキルを使う。
『神速』
キィンキィン、カァンカァン
金属のぶつかる音を奏でながら俺たちはかち合う。
「どうした、そんなんじゃ俺は倒せないぞ?」
「確かにこのままじゃ無理。だからとっておきを使う。」
とっておき?
隠していた切り札か何かか?
『月華一閃』
まさか俺の技を使ってくるとはな。
しかもこの技は速度に依存する。
『神速』を使っている状態で出されたらなかなかに厄介だ。
「ちいいっ!」
ギィンッ!
俺は殺気を頼りに何とか受け止める。
いやあ、危なかったぜ。
こりゃあ俺も少し本気を出すしかないな。
レイから預かったこの剣、切れ味もすごいが、どちらかというと重さを利用してぶった切るタイプの剣だと見た。
ならばやることは一つ。
『重力操作』
俺は自分が持つ剣に重力操作魔法をかけ、重力を10倍にした。
この程度なら、身体強化系の魔法なしでも充分この剣を振るえる。
「こいつを見せるのはお前が初めてだ。」
「いったい何をする気?」
「見ていればわかる。だが安心しろ、殺しはしない。」
殺したらボスに怒られるし。
『貴重な戦力削ってんじゃねえ!』って。
「......。」
レイはブーヴィーを俺の攻撃の重心をずらすように構え、受け流そうとする。
だが甘いな、この攻撃を受け流すのは不可能だ。
「行くぞ!【グラビティスラッシュ アレススペシャル】!」
グァンッ!
でかい轟音が響き、俺の攻撃はレイのブーヴィーに直撃する。
「っ!?」
ついに、レイはブーヴィーを支えきれなくなりその手から離れた。
「決着はついたな。約束通り、お前は俺の友人てことで。」
「悔しい、絶対負けたくなかったのに。特別な関係になりたかったのに。」
そういえばこいつ、孤児院から引き取られて組織に入ったって言ってたよな。
境遇はほぼ俺と同じか。
こいつは自分に俺を重ねて見ているのかもしれない。
だから俺との特別な関係にこだわっていたのだろう。
俺とて、勇者パーティーに出会っていなければ、『仲間』と呼べる存在はいなかっただろう。
俺はそっとレイに近づき、告げる。
「お前がどう思っているかは知らないが、俺には友達と呼べる存在はまだいない。友達とは喜怒哀楽を共にして、ともに成長できる素晴らしい『特別な関係』だと俺は思っている。だからその最初がお前であってくれたら俺は嬉しいんだがな。」
「初めての友達.....特別な関係....、わかった、今日からアレスと私は友達。」
よかった。こいつも一応女の子だし、悲しい顔してるところは見たくないしな。
「アレス、ありがとう。」
「こっちこそ久しぶりに楽しい戦いができて良かったよ。」
「うん、私も楽しかった。」
「んじゃ、俺はこれで。」
ブーヴィーを手にした俺はその場から去ろうとする。
「待って。」
「何だ?」
「今度またプルィンを作ってくれる?今度は私のために。」
「何だそんなことか。当たり前だろ?なんせ俺たちはもう友達なんだからな。」
「うん、楽しみにしてる。」
その時、普段ポーカーフェイスのこいつが笑顔を見せたことに驚いた。
「普段からそうやって笑えばいいのに。」
「これは私からアレスへの『特別』。アレスにしか見せない。」
「お、おう、そうなんか。」
なんか試合の意味あんまなかった気がするけどいいか。
こうして俺は試合を終え、屋敷に帰った。
「友達か。」
一人、そんなことを呟きながら。
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