第14話 自分にしかできないこと、それを見つけろ

屋敷に帰りダラダラしていた俺。

ふと誰かの気配を感じる。

ん?この気配は....、なるほど仕事か。


「入って構わない。」


すると窓から組織の連絡役が音を立てずに入ってきた。


「アレス様、今回の仕事内容なのですが.....。」


・・・・・・・・・・・・・・・・


俺は今回の仕事について考えていた。


コンコン


突然扉をノックされ、俺はすぐさま起き上がる。

この気配、ヘレナか。


「わたくしです。ヘレナです。」


「今開ける。」


俺は扉を開けてヘレナを部屋に入れる。


「きれいな部屋ですね。アリサとは大違いです。」


アリサ、お前部屋の掃除苦手だとは知ってたけどそんなにひどいんか。


「で、用件は?」


「実はグゥルィーンティーの事で相談がありまして。」


「なるほど、グゥルィーンティーね。」


「はい、それで.....。」


俺は知っていた。

彼女が俺の部屋を訪ねた本当の訳を。

恐らくは俺の今回の仕事と関係しているはずだ。


「もう一度聞く。本当の用件は?」


彼女は驚いたような顔を見せたが、すぐに真剣な顔になった。


「なるほど、その様子ではわたくしがアレスさんの部屋を訪ねた本当の理由をわかってらっしゃるみたいですね。」


「仕事の依頼が来てな。今回の件はルーバス家、特にお前に関係のあることだ。」


「ええ、実はお願いがありまして、どうしてもアレスさんの力を貸してほしいのです。」


俺の返事は決まっていたが、ヘレナが語るのを黙って聞く。


「ご存じの通り、この街には我がルーバス家が管理している孤児院があります。その孤児院に賊が侵入し、孤児院の子ども達を攫ってしまったのです。おそらくこのままでは子どもたちは奴隷として売られることになるでしょう。我々の警備が甘かったとはいえ、不覚を取りました。この事態を見過ごすことはできません。どうか力を貸してもらえないでしょうか?」


やはり今回の仕事の内容と同じだな。

俺はヘレナのお願いに対し答える。


「返事はノーだ。」


「なっ、なぜですか!?あなたほどの力があれば簡単に制圧して子どもたちを解放できるのでは!?」


「話は最後まで聞け。勇者パーティーとして力を貸すことはできないと言っているんだ。」


「というと?」


「俺はその件ですでに組織から仕事の依頼が来ている。つまり俺は組織の人間として動かせてもらう。」


「......、なるほどわかりました。ですが一つだけお願いが。」


「何だ?」


「わたくしも同行させていただけないでしょうか?」


ふむ、困ったな。

基本的に組織では外部の人間を同行させることはNGとされている。

どうしたものか。


「組織では外部の人間の同行は基本許されていない。」


「そうですか......。」


「だが。」


「だが?」


「偶々そこに同じ目的の人間がいて、偶々同じ行動をするのは組織として何の問題もない。」


「っ! なるほどわかりました。もしかしたら今夜、偶々アレスさんとお会いすることになるかもしれませんね。」


「そうだな。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・



1時間後、俺は孤児院の前に立っていた。


「あら、アレスさん、こんなところで会うなんて偶然ですね。」


「ああ、偶然だな。しかし俺は生憎これから行かなくてはならない場所がある。」


「実はわたくしもこれから行かなくてはいけない所があるのです。」


「じゃあ、俺はこれで。」


「はい、それではまた。」



俺は賊のいるアジトへと向かう。

後ろには一定の距離を保ちつつ、顔をニコニコさせながら俺の後ろをずっとついてくるヘレナ。

お前なあ、それじゃあただのストーカーだぞ?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



賊のアジトへと到着した俺は、早速仕事にかかる。


「まずは囚われている子どもたちを解放するか。おいヘレナ。」


「はい!何でしょうか?」


バカ野郎、でけえ声出すな。


「今から子供たちを解放する。そのために透明化魔法を使い、俺たちの姿を見えなくする。俺のそばを離れるなよ?」


「わかりました。」


『透明化』


可視化されなくなった俺たちは賊のアジトの中を進み、子供たちが囚われているところまで行きついた。


「みなさん、大丈夫ですか!?」


「ヘレナ姉ちゃん!」


「ヘレナお姉ちゃんだ!」


「もう大丈夫です、わたくしたちが助けてあげますからね。」


子どもたちを見つけ、安堵しているヘレナ。

しかし、俺は現実から目を背けない。


「囚われた子供は14人と聞いている。ここには12人しかいないようだが?」


「っ!?他の二人はどこに行ったのですか!?」


「俺達がいけないんだ....抵抗して逃げようとするから.....。」


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


そういうことか、大体の状況は理解した。


「なるほどな、お前たちだけでも助け出す。それが俺の仕事だ。」


「どういうことですか!?他の二人は見捨てろと!?」


どうやらヘレナは状況を呑み込めていないらしいな。

酷なことだが伝えるしかない。


「他の2人はいない。」


「いない?どういうことですか?」


「恐らく、子供たちが逃げようとするから見せしめに殺したといったところだろう。」


「そんなっ!なんてことを....。」


「残念だが今は悔やんでいる暇はない。一刻も早く子どもたちを連れて逃げろ。外には組織が用意した荷馬車がある。この人数なら充分乗れるはずだ。伯爵家の娘が馬の扱いを知らないなんて言わないよな?」


「........、わかりました。子供たちは私が責任をもって送ります。なのでアレスさん、後は頼みました。」


ヘレナたちを先に逃がした俺は、賊の始末をするため動き始めた。


賊に逃げられたら厄介だ。

ここは陽動して一気に叩く。

俺は手に持ったブーヴィーで近くの木を倒す。


ズドォン!


これで音に気付いた賊たちが出てくるだろう。


「なんだ!?」


「おい!ガキどもがいねえぞ!」


「どうなっていやがる!?」


出てきたな。

俺は賊の前に姿を現す。


「よう、色々と困惑しているところすまねえが、お前らには死んでもらう。」


「誰だ!」


「おい、侵入者だ!」


「ちっ、やっちまえ!」


『神速』


俺はスキルを使い、賊たちを一人一人確実に始末していく。

断末魔すら出させないスピードで。


「これで64人。あと一人どこかにいるはずだが....。」


俺はアジトからこっそり逃げようとしている奴を見つけた。

すぐに距離を詰め、道をふさぐ。


「おいおい、どこに行こうとしてるんだ?」


「なっ!?くっそお、どうなってやがる!」


「まさか子ども2人殺しておいて、自分は殺される覚悟がないとか言わねえよな?チェルゲティの頭、フジュム=チェルゲチィさんよお?」


「なっ、なんで俺の名を!?」


組織からもらった情報通りだな。

これまでも同じように色んな街の子どもをさらい奴隷売買を行ってきたらしいが、ちょっとやりすぎちまったみてえだな。


「【紅】と言えばわかるか?仕事だよ。お前らの始末をしろって。」


「【紅】だと!?な、なんで俺達なんだよ!?他にも悪い奴なんてたくさんいるだろ!?」


「知らん。俺は言われた仕事をするだけだ。それ以上のことも、それ以下のこともしない。」


「あいつらだって、身寄りのないただのガキじゃねえか!殺されても誰も悲しまねえだろ!?」


「...........。」


俺は無言でフジュムを見つめる。


「くそ、おらああああ!」


奇襲のつもりか?

動きが素人すぎて話にならんな。

こんな奴がボスとはチェルゲチィは大した組織ではなさそうだな。

俺は攻撃を最低限の動きで躱し、フジュムの首に刀をあてる。


「ひぃぃぃぃぃ!」


「この世とのお別れは済んだか?」


シュッと刀を引き、首をはねる。

フジュムの首が地面に転がる。


俺はブーヴィーを鞘に納めて溜息を吐く。

はぁ、仕事中にこんなに喋るなんてらしくもねえな、俺。

てか、個人的にムカついたとはいえ、本来捕えるはずの親玉を殺すなんて、今回の仕事は失敗だな。

俺はフジュムに一つ嘘をついた。

今回の仕事で俺は、『それ以上の事』をした。

こりゃあボスに叱られるなあ。


仕事を終えた俺は屋敷に戻った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・



「アレス!あんたヘレナに何したのよ!」


「アレス君、今日ヘレナと出かけていたようだが彼女の元気がないんだ。なぜだか知らないかい?」


まあこうなるとは思っていたが、案の定か。


「心当たりがある。二人で話させてくれ。」


俺はヘレナの部屋へと向かった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



コンコン


「ヘレナ、俺だ。アレスだ。入っていいか?」


ガチャっという音とともに扉が開かれる。


「どうぞ中に....。」


やはり元気がないな。

まあ表の人間はああいう場面にそうそうでくわさないからな。


「まず最初に言っておく。今回の事件はチェルゲチィが起こした悲劇、お前のせいではない。」


「しかし、わたくしたちが.....ルーバス家が警備をしっかり行っていれば....。」


こいつの悩みは孤児院の子どもが殺されたことだけじゃない。

きっともっと大きな悩みを抱えているはずだ。


「この際だ、悩みがあるなら言ってみろ。力になれるかもしれん。」


「........、最近思うのです。わたくしの治癒の力は何のためにあるのかと。本来治癒の力は人を救うためのもの、それなのに....今回と言い私には何もできませんでした。」


なるほどな、こいつは自分の力、いや、自分自身の存在意義を見失ってしまっているのか。


「お前は一つ勘違いをしている。お前は治癒魔法を使うために存在しているんじゃない。お前にしかできないことは治癒魔法だけじゃないはずだ。現に俺は知っている。お前は子どもが好きだし、お茶を入れるのも上手い。おそらく他にもあるだろう。特別な力を持っているからと言ってそれに縛られる必要はないんだ。」


「わたくしにしかできないこと......。」


「今回被害にあった子どもたちのケアとかな。」


「そうですよね、治癒という特別な力にこだわらずとも、わたくしにできることは他にもあるのですね。」


見つけたな、自分の存在意義を。


「まずは残った子どもたちのケアだな。俺には不可能だ。」


「ふふっ、そうですね、それが今のわたくしにできる、わたくしにしかできない事。」


「やっと笑ったな。誰だって笑顔が一番だ。女の子は特にな。」


「アレスさんのおかげです。本当にありがとうございます。」


良かった、これでこいつも力の呪縛から解放されたはずだ。

いやあ、安心したら急に腹が減ってきたなあ。

飯食おう、飯。


「さあ、夕食食いに行くぞ。俺は腹が減ったんだ。」


「そうですね、行きましょう。」


あーっと、そうだこのことも言っておかなくちゃな。


「あー、ヘレナ、今回俺のせいでお前が元気ないみたいになってるから弁明頼んだぞ?」


「ふふっ、わかっていますよ。」



こうして俺たちは夕食を食べに向かった。









ヘレナ『わたくしの存在意義、その中にはアレスさんも.....。』

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