第15話 んん?そういやあ知らねえなあ、ボスの名前

翌日、俺は組織のアジトを訪れていた。

昨日の仕事の失敗について報告するためだ。


「アレスだ。入るぞ。」


そう言いながらボスのいる部屋に入る。

いやあ、ただでさえ弱いのにそのうえ命令違反とかもう下手するとクビだな。

料理それなりにできるし、いっそ飯屋でも営むか。

第二の人生について考えていると、ボスから返事が返ってくる。


「昨日はやってくれたな、まあお前ならやると思っていて任せたのだが。」


え?なに?

戦力外のやつをクビにするためにわざと俺をあの任務に行かせたわけ?

とりあえずクビという最悪の事態を避けるために素直に謝ろう。

うん、それがいい。


「すまない、仕事に私情をはさむのはご法度なのだが、今回はどうしても許せなくてな。」


「理由を聞いてもいいかな?」


「もちろんだ。俺が孤児だったことは知っているよな?フジュムが言ったんだ。『身寄りのないただのガキは殺されても誰も悲しまない』とな。そこに自分の過去を重ねてしまってつい感情的になってしまったようだ。」


俺とて人間だ。

笑うこともあれば、悲しむことも、怒ることもある。

そして嘘をつくことも。


「お前が感情的になるなんて珍しいな。まあ、フジュムは捕えていても情報を聞き出したのちどのみち殺すつもりだった。だからお前は仕事の失敗を気にすることはない。それにお前にはいつも世話になっているからな、この程度の失敗でどうこうするなんてことはないさ。」


やだ、ボスなんか優しくなあい?

このまま口説かれてたら惚れてたね、うん。


「ありがたい。」


「しかしお前ほどの人間が自分のためだけに命令違反を犯すとは思えないな。一緒に同行していた例の勇者パーティーのメンバーのためか?」


あっ、勝手に外部の人間同行させたことばれてるぅ~。

俺がついた嘘、それは過去の自分を重ねたからではなく、フジュムが同じパーティーの仲間を悲しませたことに対して感情的になったということだ。

まあ、ボスにはばれてるんですけどねえ。


「まあ、そんなところだ。ところで以前、フォンワグーラのソテーを食わせてやるといったな。持ってきたぞ。状態保存魔法で作りたてのままの状態だ。」


「ほう、それではありがたく頂かせてもらおう。」


ボスは黙ってフォンワグーラのソテーを口にする。


「なるほど、アレスが勧めるのも分かるな。いい味だ。」


「だろ?あんたにだけは食ってほしくてな。」


「なぜ私なんだ?」


「覚えてるか?あんたが俺を組織に勧誘した日のことを。」


あれは雨が降っていた日、俺は一人訓練に勤しんでいた。

そんなところをボスに声をかけられた。


「覚えているさ、あの時のお前は相当ひどかったな。」


「ああ、そんなどん底だった俺を組織に入れてくれて、俺の居場所を作ってくれたこと。まあ、他にも数えきれないほどの恩があるんだが。それに対して、いつか礼をしたいと思っていてな。」


「なるほどな、だが私にお礼をしたいというなら他にもやり方があるんじゃないか?」


「ん?他にも?」


「聞くところによると、お前は勇者パーティーのメンバーたちに優しく接していて、彼女たちの悩みにも親身になって付き添っているそうじゃないか。」


まあ、そんなこともあったような.....。

てかそこまで組織に知られてんの俺?

恥ずかしすぎるんだが。


「それが何か?」


「だからその.....。なんだ、私の悩みも聞いて欲しくてな。」


ん?ボスに悩み?

悩みとは無縁だと思っていたんだが。

普通にどんな悩みか気になるな。


「で?悩みっていうのは?」


「ああ、私は【紅】のボスだ。裏稼業のトップということもあり......なんだ、その......恋愛とかそういう経験がなくてだな。私ももうすぐ28になる。そろそろそういう浮ついた話の一つや二つ欲しいところでな。」


んん?つまりどういうことだ?

ああ、いい男紹介してくれってことか!

しかし俺の知り合いでいい男なんていたかどうか....。


「生憎だが、俺にはボスに相応しい男の知り合いがいないんだ。すまない。」


「あの、えと、その、いや、紹介してほしいとかじゃなくてだな.....。」


ただまあ、ボスには世話になっているし恩返しはしたいところではある。

うーむ、そうだなあ。


「こういうのはどうだ?巷では仲のいい男女は一緒に出掛けて、デートというものをするそうだ。それを身近な誰かとしてみる、というのは。」


「なるほどそうなのか!デートというものがあるのか!しかし困ったなあ(チラッ)、私は組織のボスということもあり、仲のいい異性がいないんだなあ。(チラッ)」


「そうか、それは確かにどうしたものか.....。」


「まあ、強いて言うなら?(チラッ)その、えっと、ア、アレス?(チラッ)とかかなあ?」


え?俺?

何?俺とデートすんの?

まあ、ボスがそれでいいなら構わないけど。


「わかった、あんたがそれで良いならそういうことで。」


「約束だぞ!?絶対だからな!?」


なるほどなあ、独身こじらせるとこんな感じになっちゃうのかあ。

俺も早めに相手見つけようっと。


「アレス。」


「何だ?」


「お前は失礼なことを考えているとき大体顔に出る。注意しろ。」


え?マジ?

だからアリサとかにも心読まれてた訳?

次から失礼なこと考える時はポーカーフェイスでっと。


「では、その日時だが......。」



俺はボスとのデート?の約束を済ませ、屋敷に戻った。



・・・・・・・・・・・・・・・・



屋敷に帰った俺は一人考えていた。

いや待てよ?

デートって、何するんだ?

すると扉をノックされる。


コンコン


「ちょっとアレス、料理魔法の練習に付き合ってほしいんだけど。」


アリサか、ちょうどいい、こいつに聞いてみよう。


「なあ、アリサさんや、時にデートとは何をするものなんだろうか?」


「なっ!?デ、デート?そりゃあ、その、手をつないだり....食べ物食べさせたり......って、あんたデートするの!?」


こいつは何をそんなに驚いているんだ?

親しい男女で出かけるだけだろうに。


「ああ、組織のボスとデートというものをすることになってな。果たして何をするものかと悩んでいたんだ。」


「あんたの組織のボス女の人だったのね......。」


あれ?言ってなかったっけ?


「ああ、一応女性だ。」


「一応って....、まあいいわ。で、ボスの名前は知っているの?」


名前?

そういやボスの名前知らねえや。


「名前知らないと何か問題があるのか?」


「当たり前でしょ!あんたデート中に相手の事『ボス』って呼ぶわけ?」


ふむ、確かに言われてみればそうだな。

親しい男女が名前を知らないのはおかしい。


「とりあえず、ありがとう、色々参考になった。」


「ふん、別に大したことはしてないわよ。」


アリサは部屋を出て行ってしまった。

あれえ?料理魔法の練習は?










アリサ『あたしだって.....。』

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