第12話 こんな定番みたいな事あってたまるか!
「起床ー!」
カンカンカン!とフライパンを叩いてみんなを起こす。
「なんだアレス君、一体どうしたんだ?」
「ふぁぁぁ、全く何なのよ。」
「おはようございます、アレスさん。」
俺は深刻な顔でみんなに向かって語りだす。
「早朝諸君らに起きてもらったのは他でもない。この度、この屋敷で凶悪な事件が発生した。」
『事件?』
「そうだ。昨夜俺が余った卵で作ったプルィンが何者かによって食われた。」
身内の犯行なだけに、今回はとても看過できない。
「なによ、そんなしょうもない事のためにあたしたちを起こしたの?」
こいつ、正気か?
俺が丹精込めて作ったプルィンをしょうもないだと!?
いや待て、ここは感情的になったら負けだ。
「アリサ=グレッツエン、18歳。特技は攻撃魔法と卵を割ること。趣味、食べ歩きと読書。苦手なことは料理と部屋の片づけ。尚、成人男性、主に俺への態度がひどい。」
「なっ、何よ急に。てかなんでそんなこと知ってるのよ!?」
ふっ、動揺してるな。
「アレスさん、その手に持っている物は?」
「これか、これは組織の情報と俺の知っているデータによって作られたみんなの資料だ。」
「そんなものを作っていたのか....。」
「勘違いするなセリス、これは今回の事件を解決するために作った簡易的なものに過ぎない。その気になれば身長や体重など様々なことを調査することも可能だ。」
「身長や体重!?」
アリサのやつ、動揺を隠せていないぞ。
どうやら俺を甘く見ていたようだな。
今でこそ組織の戦闘部に所属しているが、俺とて元は諜報員、情報を集めるのはたやすい。
「次にヘレナ=ルーバス、同じく18歳。特技は支援魔法とお茶を入れること。趣味、花の手入れと孤児院の子ども達の相手をすること。苦手なことは特段なし。因みに最近体重が増えて悩んでいる。」
「あらあら.....。」
「最後にセリス=アルスバーン、歳は俺と同じで19。特技は剣術と裁縫。趣味、ぬいぐるみ集めと可愛い小物収集。苦手なものは幽霊などの存在が未確認なもの全般。そして、猫舌。」
「はうっ。」
『はうっ。』って、セリスお前そんな可愛らしい声出せたんか。
「非常に残念だが犯人はお前達3人のうちの誰かだ。」
「私たちを疑っているというのか?」
「俺も疑いたくはない。しかしプルィンが食われたのは昨夜から今朝にかけての間。その間この屋敷にいたのはお前たちだけだ。」
「確かにそうですが.....、しかしなぜ犯人はアレスさんの作ったプルィンを食べたのでしょうか?自分で作る、もしくは買って来ればよかったのでは?」
ふうむ、確かにそうだな。
なぜわざわざ俺の作ったプリンを狙ったのか....。
「恐らく、俺のプルィンを食べなくてはいけない事情があったのかもしれないな。」
「事情ですか?」
「ああ、おそらく動機にもつながることだが、小腹がすいていて偶然俺のプルィンを見つけた、俺の作ったプルィンへの執着、または俺自身への復讐といったところか。」
「最後の動機はありえないと思いますが...。他二つの理由ならおかしくはないですね。」
まずは一人ずつ質問をしていくか。
「セリス、お前はプルィンは好きか?」
「ああ、基本的に甘いものは好きだが....。」
セリスは甘いものが好きっと。
俺はペンを走らせながら質問を続ける。
「昨夜寝る前何をしていた?」
「昨夜は、テドィーちゃん....ンッンン、クマのぬいぐるみの手入れをしていた。」
あのクマ、テドィーちゃんっていうのか。
まあ一応メモしておこう。
「なるほど、わかった。」
次は俺に対するあたりが強いアリサ、お前の番だ。
「次にアリサ、お前はプルィン作れるか?」
「あっ、あたし!?無理だけど....。言っておくけど!今はまだ無理ってだけだから!」
はいはい、プリンは作れないのね。
まあ、今後に期待だな。
「ちなみに昨晩は何をしていた?」
「昨日は卵割りすぎて魔力が枯渇して疲れたからすぐ寝たわ。」
ふむ、確かに昨日は魔力をかなり消費したからな。
疲れて寝たというのは納得だ。
「最後にヘレナ。」
「わたくしですか?」
「君はプルィンをどう思う?」
「どう思う?うーん、美味しいと思いますし、たまに食べたくなりますね。」
プルィンへの興味はあり、評価もよしか。
「では昨晩の行動は?」
「昨日はアレスさんにオススメされた、『グゥルィーンティーの入れ方』という本を見ていました。あっ、でも寝た後、お手洗いに行きたくなり一度起きました。」
なるほどなあ。
しかしどうしたものか、みんな怪しくてさっぱり誰が犯人なのかわからん。
うーむ、やむ負えまい。
「どうやら犯人が名乗り出ないようなので、最終手段を使わせてもらう。個人的にできればこの手は使いたくなかったのだが....。」
「アレス君、その最終手段というのは?」
「ああ、これを見て欲しい。」
「それは一体なんですか?」」
「これは、犯人が俺のプルィンを食べるのに使ったと思われるスプーンだ。幸いにもまだ洗われていなかったのでな、そのまま保管させてもらった。」
「あんた....、時々キモいことするとは思ってたけど、まさかこんなことまでするなんて....。」
そんな冷たい目で俺を見るな。
元はと言えば俺のプルィンを食べた奴のせいなんだからな。
「このスプーンに鑑定魔法をかける。そして犯人の唾液の成分が出ればそいつは確定で黒というわけだ。」
「な、なるほど。」
「確かに確実ですが....。」
ジトー
まあ、別にこいつらにキモいとか思われても今更だしな。
あと悪いがアリサよ、そんなに睨んでも俺はやるぞ。
「では早速....。」
『鑑定』
マジかよ。
えっ、本当の本当にマジ?
「.........。」
「何よ、勿体ぶって、結果はどうなのよ?」
「..........。」
「アレス君?」
「...........。」
「アレスさん?」
どうしよう、唾液の成分は出た。
出たんだけど、これはなあ....。
「まずはみんなに謝罪しよう。疑ってすまなかった。このスプーンから君たちの成分は出てこなかった。」
「アレス君それはつまり.....。」
「まさかアレスさん.....。」
「あんた自分で食ってたとかいうオチじゃないでしょうね?」
「いや違う。断じてそんなことはない。自分で言うのもなんだが俺の記憶力は常人のそれをはるかに凌駕する。だから『寝ぼけてただけで自分で食ってました。』とかいうオチではない。ないんだが....。」
あいつ....、まさかこんなことするなんて....、俺が言うのもなんだが、なかなかにキモいぞ?
「すまない、ちょっと組織に行く急用ができてしまった。この件の謝罪は改めてさせてもらう。」
「アレス君!?」
「ちょっ、あんた!?」
「あらあら、ふふっ。」
俺はアイツに会うために組織へと向かった。
???『アレスの作ったプルィン美味しかった....。』
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