第38話 おいクララ、バーガーじゃなくて前を見ろ
昨夜の件をギルドにも伝えておけとボスから言われた俺は、街に来ていた。
「腹減ったし、ギルドに行く前にチョベリバーグでも食いに行くか。」
店に入ると店主が俺を見て一言。
「一見さんに食わせるもんはねえよ。」
いや俺何回も来てるんだが....
おっと、そういえば変装していたんだった。
「店主。」
「何だ?」
俺は身分証代わりに【紅】のメンバーカードを見せる。
「なっ、あんただったか!すまねえ!髪の色が違った上に格好も違ったから気が付かなかったんだ!」
「分かったから、大きい声を出すな。あいつらが居たらマズい...。」
「今日は一人か?昨日はあんただけ居なかったしよぉ。」
「ああ、ちょっとな。ん?てか昨日あいつら来たの?」
「ああ。3人で来てたぜ。」
よかったぁ、違う店行って。
「とりあえずチーズインチョベリバーグ1つ頼む。」
「あいよ!」
さてと、来るまでの間何してようか....
しかしいい匂いだ。
俺のお気に入りの店の一つなだけあって、やはり店も繁盛している。
しばらく待っていると....
「はいよ、チーズインチョベリバーグお待ち。」
「サンキュー。」
うん、やはりこのチーズがいい。
口の中に広がる肉汁も素晴らしいが、チーズによりよりマイルドな味わいになる。
俺は、あっという間に食い終える。
「ご馳走様。」
さてと、支払いをして....ん?
あれ?財布...え、無い?
俺は収納魔法にしまったっけかと思い、確認するが...やはり無い。
これは...まいったな。
「なあ、店主よ。」
「どしたんだ?」
「物は相談なんだが、今回の飯代....。」
「まさかあんた財布忘れてきたとか言わねえよな?」
「そういうわけじゃあないんだが....。」
「ああ、勇者パーティーのツケにしといてくれってことか?いいぞ、お得意さんだしな。」
おいおい、マジか...なんか申し訳ないな。
俺は勇者パーティーの3人に脳内で謝っておいた。
うん、これで申し訳なさは消えたな。
「理解が速くて助かる。ではまた来る。」
「まいど!」
俺は店から出ると、ふぅッと一息。
これ、やられたか?
財布盗むなんてやってんなぁ?おい。
どこのどいつか知らねえが、俺を舐めるなよ?
どこまでも食らいついて後悔させてやるぜ。
「【感覚拡張】」
俺は魔法で嗅覚を鋭くする。
ずっとそばに持ってたから財布には俺の匂いが染みついてるんだぜ。
どれどれ...
匂いのもとへと行くと、そこには幼い子供と一人の男がいた。
『遅いぞ小僧!』
『ご、ごめんなさい。これ、盗んできた財布です。』
『さっさとよこせ!』
『....もうやめた方がいいですよ。流石にあなたが言うことでも僕は人を貶めるなんて...。』
バチーン
『うるせえ!お前、俺が【紅】の人間だって分かって言ってんのか?』
『....でも....。』
『コイツ!』
「そこまでだ。」
見かねた俺は声をかけながら近づく。
「誰だお前?」
「おいおい、お前【紅】の人間なんだろ?俺を知らないのか?」
「はぁ?知らねえよ。」
「ほう、俺はアレスって言ってな。これでも一応【紅】の人間なんだが。」
「なっ、まさか、【紅】のアレス!?」
「なんだ、知ってるんじゃねえか。なら話は早いな。悪いが一緒に来てもらおう。」
「くそっ、こいつがどうなってもいいのか!」
「ヒィッ!」
子供を盾にするとはな。
コイツもその程度の人間というわけだ。
つまり【紅】の人間ではない。
「『重力操作』」
「なっ、身体が動かねえ!」
「坊主、逃げろ。」
「に、兄ちゃんは...。」
「俺は本当の【紅】に所属している者だ。」
「...やっぱり、父さんが言っていたことは本当だったんだ。本当の【紅】の人たちはいい人ばかりだって。」
そう言いながら、男の子は逃げていく。
「さて、行こうか?」
「ここまでか...。」
諦めた男は、俺に連れられてアジトへと向かう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「と、いうことがありこいつを連れてきた。」
ボスの部屋にはミアもいた。
ボスの前に男を突きだす。
「なるほどな。実は最近【紅】を語る者が増えていてな。ミアにもそいつらの調査をお願いしていたんだが...。」
「た、頼む!助けてくれ!出来心だったんだ!」
「と言っているが、どうするんだボス。」
「【紅】の名を語ること、それすなわち我々を刺激することだ。そもそもお前もアジトに連れてきたということは、処分するつもりだったんだろう?」
「まあな。」
「処分!?そんな....。」
「ミア。」
「はい。」
「連れていけ。」
「分かりました。」
「くそがぁ!」
ヒュン
「ぐぉっ....。」
ミアは男を無力化して連れていく。
「組織として今後も名を語る者が居れば容赦はしないつもりだ。今回は災難だったな。」
「別に気にしてないさ。」
「そうそう、隣の部屋でレイとクララが待っているぞ。」
「おけ。んじゃ、俺はこれで。」
「ご苦労。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「で?何してたんだ?」
「ボスからクララにアジトの事教えてくれって言われた。」
「アレス様の属している組織なだけあって、すごかったです!」
へぇー、まあ仲のおよろしいことで。
「もう終わったんだろ?帰るぞ。」
「アレス様、できればご飯を食べたいのですが。」
「まだ食べていなかったのか?まあどっか寄っていくか。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【勇者パーティー】
このままじゃ、何も変わらないままよね...
「決めたわ!」
「何をだ?」
「昼食の場所ですか?」
「違うわよ!もう待つだけなのをやめようと思ったの。」
「....アレス君の事か。」
「ええ。」
何もしないでただ待つだけなんて、あたしはそんな人間じゃないわ。
「しかしアリサ、どうしようというのですか?」
それは....
「とにかくこの時間だし、昼食を食べながら相談しましょ。」
「そうだな、できれば昨日とは違う場所がいいな。」
「前にアレスが言っていた場所、ジャンボテリヤキンバーガーの露店なんてどう?」
「いいですね、何か情報も手に入るかもですし。」
「そうと決まれば早速行くわよ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アレス様、このバーガーいい匂いです!」
「まさか別の女の子連れてくるとはなあ。アレスも変わっちまったなぁ。」
「別に何も変わってねえよ。」
極力勇者パーティーの連中が来なそうな飯を食える場所ということでここに来たわけだが、やれやれだぜ。
「レイの分も買ったし、行くぞクララ。」
「はい!」
ドン
「あぁ!私のジャンボテリヤキンバーガーが!」
「おいクララ、バーガーじゃなくてちゃんと前を見ろ。」
「すまない、こちらも注意するべきだった。」
「気にしないでくれ。すまないオヤジ、もう一つくれ。」
「おうよ!...って勇者様じゃねえか!?」
「ん?」
露店のオヤジが指さす方向を見ると...案の定か。
しかしなぜここに?
「おじさん、ついでにあたし達にもジャンボテリヤキンバーガー、3つね。」
「わ、分かった。」
「クンクン、この香り.....。」
「どうした、ヘレナ?」
「いえ、何か懐かしい香りが....。」
そう言いながら屋台ではなく、俺に近づいてくるヘレナ。
「この匂い、アレスさん?」
おいおい、お前いつから嗅覚にステータス極振りしてたんだよ....
「アレス君だと?確かに髪の色は違うが、顔は....え?アレス君?」
「な、なぁクララ、別の店行かないか?」
「ん?なぜですかアレス様?」
バカ野郎、名前を出すな!
「へぇ~、あんたアレスっていうのね。あたしたちが探してる奴の名前と同じねぇ。」
にっこりとした顔で圧をかけてくるアリサ。
うん、積んだな。
「アレス、いつまでたっても来ないから見に来た。」
はい、レイ登場。
終焉のお知らせですか、恐れ入ります。
「やはりこの香り、アレスさんでしたか...」
「でかしたわ、ヘレナ。」
「アレス君....。」
俺がようやく言えた一言は....
「おう、久しぶり?」
だった.....
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます