第17話 やりたいことをする、それだけでいいんだ

「やれやれ、疲れたなあ。風呂でも入るか。」


「ちょっと!」


この声はアリサか。


「何だ?」


「セリスの様子がおかしいの、今日帰ってきてからずっと。あんた何か心当たりない?」


あのセリスがねえ、珍しいもんだ。


「特にないな。そういうお前は何かないのか?」


「そうねぇ。」


二人で悩んでいると、ヘレナがやってきて言う。


「最近特に様子がおかしくて、わたくしも心配していたのです。しかし聞いても『大丈夫』と言うばかりで....。」


パーティーリーダーが本調子じゃないのは良い状態とは言えないな。

仕方ない、ここは俺が一肌脱ぐか。



・・・・・・・・・・・・・・・・



コンコン


「おーい、セリス、いるかー?」


返事がない。

乙女の部屋に勝手に入るのは憚られるが....。


「入るぞ?」


部屋に入るとテドィーちゃんにぶつぶつと何かを語りかけているセリスの姿があった。


「セリス、何してるんだ?」


「なっ、アレス君!?いや、これはその.....。」


「まあいい、ちょっと聞きたいことがあってな、最近元気がないそうじゃないか。今日は特に。何かあったのか?」


「ヘレナに聞いたのか。あいつも口が軽いな。まあアレス君にも関係のあることだ。この機会に話すとしよう。」


やはり何か悩みがあったらしい。

俺に関係あること?

俺が弱すぎて戦力にならないとか?


「気づいているとは思うが、今日君が魔族を倒しているのを見た。しかも素手でな。私はそれを見ていることしかできなかった。私は勇者だ。人々を守ることが仕事のはずなのに....何もできなかった。」


え?あの戦闘見てたの?

他の人間の気配は感じてたけどまさかセリスだったとは....。

まあ、薄々気づいてはいた、セリスが勇者という肩書に縛られているということに。


「テドィーちゃん。」


「なっ、なんだ!?急に!?」


「前にも言ったな。お前のことは大体知っている。特技、趣味、苦手なもの。」


「それがどうしたんだ?」


「お前は勇者という肩書に、責任感にのまれている。そのせいで自分の本当にしたいことができていない。現に大事なテドィーちゃんの目が取れかかっているというのに直していない。」


こいつも女の子だ。

本当はやりたいことがたくさんあるはずだ。

でもやるべきことを優先してしまってそれができずにいる。


「15歳で洗礼を受けた時、私は勇者だといわれた。その時からだ、私が自分のやりたいことよりも成すべきことを優先し始めたのは。私は自分に言い聞かせた。自分は勇者なんだと、人々を守らなくてはならないんだと。」


俺は黙ってセリスが語るのを聞く。


「そして今日、魔族が現れたというのに私は何もできなかった。この日のために鍛錬をしてきたはずなのに。私は、勇者なのに....。」


「違うなあ。」


「え?」


この際だ、こいつの悩み、俺がスッキリさせてやる。


「俺が裏稼業の仕事をやっているのは知っているよな?俺は責任感で仕事をしたことなんて一度もない。自分がしたいと思ったことをしてきただけだ。」


「だが、私は勇者で....。」


「勇者ねえ....、だったら何故、裏稼業をしている俺に、お前たちはパーティーに入らないかと声をかけた?それはお前自身、『人々は何をしてもいい、1つの物事にしばられなくていい』そう思っていたからじゃないのか?」


「それは....。」


「勇者が人々のために戦う。それを決めたのは誰だ?国王か?神か?自分の本当にやりたいことを捨ててまで誰かのために戦う、それはとても難しいことだ。俺だって無理だろう。いいか?自分のしたいことは自分で決めていいんだ。誰に言われるでもない、自分で決めるんだ。」


俺が組織に入ったのも、組織で仕事をしているのも、勇者パーティーの仲間になったのも、俺がそうしたいと思ったからだ。

まあ、理由はともかく....。


「自分のやりたいことをやる.....。私にそれが許されるのだろうか?」


「誰が許すとかじゃない、自分が許せるかだ。」


「自分を許す.....。どうやら勇者という言葉にとらわれすぎておかしくなっていたようだ。そうだな、私は私のしたい事のために生きていいのだな。」


「当たり前だ、お前のやりたいことを否定する奴がいたら俺が何とかしてやる。」


「ふふっ、それは心強いな。ありがとう、アレス君のおかげで肩の荷がおりたよ。」


良かった、これでこいつも自分と向き合えるな。


「そうと決まれば、まずはテドィーちゃんの修復だな!」


「ああ、そうさせてもらうよ。」



こうしてセリスの悩みを解決した俺は風呂を浴びに行くのだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・



「いんやあ、いい湯だなあ。」


ふーんふふーんふふーん


チャポン


ん?ちゃぽん?


「アレス、来ちゃった。」


な、なんでここにレイが!?


「レイ?今俺が入浴中なんだが。」


「知ってる。知ってて来た。」


いやいや、勘弁してくれよお。


「俺男、お前女、オウケイ?」


「アレスにしかこんなことしない。」


いや俺相手だから困ってるんだけど?


「とりあえず俺はあがるわ、じゃ、後で。」


「私も出る。」


はぁ、参ったなあー。



・・・・・・・・・・・・・・・



「なあ、誰だ?レイを屋敷に入れたのは?」


「わたくしです。アレスさんに用があるとのことでしたので。」


うん、いらない気遣いどうも。


「で?用って何?」


「会いに来た、それだけ。」


それだけなんかーい!

マジでこの子何考えてるんだろう。

あとちゃっかり俺の隣に座るのはいいけど、距離近くなあい?


「あんた、アレスとはどんな関係なの?」


アリサ、ナイス質問だ。

友人であることを再認識してもらわねば。


「仕事仲間。あと、特別な関係。」


いらん事言うなー!


「なるほど、それは興味深いな。」


「あんたってやつは....。」


「あらあら、ふふっ。」


セリス、はいいとして、アリサは案の定冷たい視線。

ヘレナに関しては顔が笑っていない。


「とりあえず今日は帰る。アレス、会えてよかった。」


「お、おう。」


レイが返ったあと、俺は肩身の狭い思いをした。













セリス『自分のしたい事....恋、とか?』


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