第18話 お前を殺す理由、言わなくても分かるよな?
「まずい、急がなければ!」
俺は急いでいた。
街の中を駆け、ただただ走り続けた。
「このままじゃ.....間に合わない。」
『神速』
スキルを使い加速するが....
ダメだ。
地上を走っていたのでは間に合わない。
諦めるしかないのか?
いや、まだだ。
俺は建物の屋根から屋根へと飛び移る。
ここは人ごみを避けて一気に進むしかない。
「頼む、間に合ってくれ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・
時は十数分前に遡る。
「ねえ聞いた?街の端にあるクェーキ屋の話。」
「ああ、私も知っている。味が美味しくて評判らしいな。」
「わたくしも気になっていたのですが、行く時間がなくてなかなか....。」
んん?クェーキ?
そういやあ、最近食べてないなあ。
ちょっと食いたい気はするが.....。
「なんでも今、期間限定でロウルンクェーキっていう、新しいタイプのクェーキを売っているらしいわ。」
ほう、期間限定か。それは気になるな。
「私も食べてみたいが、今から行っても売り切れで間に合わないだろうしな。」
まあ、明日朝一で行けば.....。
「確か今日まででしたよね。」
え?マジ?
ロウルンクェーキ今日までなの?
行くしかねえよなあ!?
お金良し、ブーヴィー良し。
「すまない、急用ができた。すぐ戻る。」
俺は期間限定の新作クェーキを買いに出かけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ、あいつ、絶対にクェーキを買いに行ったわよね。」
「期間限定とは言っていますが、確かよく売れるから常備することになったんですよね。」
「あの感じだと知らないで出て行ったといったところか。」
「あいつは本当にバカなんだか、賢いのかわからないわ。」
「その謎に包まれている感じがアレスさんらしいですよね。」
「まあ、まだわからないさ。もしかしたら彼は組織から呼び出されただけかもしれないしな。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
急げ俺!
「うぉぉぉぉ!クェーキィィ!」
スッ タッタッタ
何かが俺に並走してくる。
「情報通りだな、本当にこの街にいるとは。【紅】のアレス。」
誰だよこいつ、今急いでんだよ。
話しかけんな。
「俺は四天王ミラヴォーネ様の配下が一人、ロクルゥン。悪いが貴様にはここで死んでもらう。俺はこう見えて速度が自慢でな。どちらが速いか勝負だ!」
俺はこいつを無視して駆ける。
「見えた!」
「おい、貴様!俺を無視するな!」
あーもう、うるせえな。
こっちは取り込み中なんだよ。
「お前うるせえんだよ!見てわかるだろ!?急いでんのこっちは!用があるなら後にしてくれ!」
「えっ、あ、ああ、すまない。」
「おーい、ロクルゥンクェーキ1つくれ!」
「ロクルゥン?何だそりゃあ?」
やべえ、さっき話しかけてきたやつの名前が似てたから素で間違えた。
「すまない、間違えた、ロウルンクェーキをくれ。」
「ロウルンクェーキね、生憎今日は売り切れてもうないんだよ。」
ちくしょう!
間に合わなかった!
俺が落ち込んでいると.....。
「おい、もう用は済んだのか?ていうかお前、そんな食い物のために俺を待たせたのか?このロクルゥンもなめられたものだな。」
は?そんな食い物だと?
ていうかこいつが話しかけてこなければワンチャン買えたんじゃね?
え、こいつのせいじゃね?
「なあ、お前、ロウルンって言ったっけ?」
「俺の名前はロクルゥンだ!さっきからなめやがって!」
「うるせえな!ロウルンでもロクルゥンでもどっちでもいいんだよ!」
「いや、なんかお前、なんでそんなに怒ってんの?俺まだ人一人殺してないし、この街も破壊してないよ?」
「よく聞け、お前はここで死ぬ。理由は言わなくても分かるよな?」
「いや、全くわからないんだが......ま、まあいいだろう。ようやく戦う気になったか。さあ勝負といこうじゃ.....。」
『月華一閃』
「ぐふぉっ、な、なんで、どうして.....。」
バタァン
へっ、人様が急いでるときに話しかけんなってんだよ。
んん?よく見るとこいつ魔族じゃん。
そいや、なんか四天王の配下の~みたいなこと言ってたっけ。
まあ、いいや。クェーキ買えなかったし帰るか。
すると店主から声をかけられる。
「あ、あんた、魔族を一撃で....なっ、よく見るとあんたは【紅】の!?」
「ああ、【紅】のアレスだが。」
ん?いや待てよ?
良いこと考えたぞ。
「しかしまいったなあ。組織のボスがロウルンクェーキ楽しみにしてたんだが.....。どうしたものか。(チラッ)」
「!?わ、わかった。すぐに作ってくる。待っててくれ。」
使えるコネは使う、前に学んだことだ。
社会を生きていくためには必須だぜ。
「私がいつお前にロウルンクェーキを買って来いといった?」
「ボス!?なんでここに!?」
「魔族が出たという情報を聞いてな。まあ既にお前によって倒されているみたいだが。」
えええ!?
どうしよう、ここは何とか誤魔化して....
「いや、どうしてもボスとここのロウルンクェーキを食べたくてな。名前を借りさせてもらったんだ。」
どうだ?流石に厳しいか?
「お前、そういう(優しい)ところだぞ。」
まあ、そうなるよなあ。
俺のそういう(見苦しい)ところが難ありだよな。
「お待たせしました!こちらロウルンクェーキです!」
店主が戻ってきて、箱を渡してくる。
「とりあえずボス、アジトに戻ろう。」
「そうだな、せっかくだしロウルンクェーキをいただくとしよう。」
・・・・・・・・・・・・・・・
「ねえ、アレスのやつ遅くない?」
「やはり組織の仕事でしょうか?」
「案外今頃ロウルンクェーキを食べていたりしてな。」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「これ、美味しい。」
「ああ、なかなかに美味いな。」
どうしてこうなった?
「あんのお、ボス?」
「なんだ?」
「なんでここにレイがいるのでしょうか?」
「偶然そこであってな、アレスとロウルンクェーキを食べると言ったら私もというものだから連れてきた。」
『連れてきた』じゃねえよ!
そこはボスの威厳で断ろうよ!
てかレイ、お前確信犯だろ?
「はぁ、まあロウルンクェーキ食えたからいいか。」
「アレス、一太刀で魔族倒すのかっこよかった。」
「ほう、流石アレスといったところか。」
「いやレイ、お前まさか俺が屋敷から出て、ロウルンクェーキ買いに行く件までずっとついてきてたわけじゃないよな?」
「当たり前、ずっと見てた。」
いや、見てたじゃねえよ!?
せめて声かけろよ!?
それもうストーカーだよ?
俺達はそんな会話をしながらロウルンクェーキを食べた。
ミラヴォーネ『アレス.....なかなかやってくれる。』
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