第29話 夜逃げをするときは計画的に

「荷物オウケィ、武器装備、身分証よし。」


何を隠そう、俺はこれから夜逃げをしようと試みていた。


「ふっ、あいつら何も知らずにぐっすり眠ってやがる。出るなら今だな。ミッション開始っと。」


俺は音を立てずに部屋を出て、廊下を歩く。

うーむ、昔ボスに用意してもらった隠れ家に向かうとするか。

ここからだと、南方に行って....、まあ行きながら考えればいいか。


「あんた何してるの?」


「っ!?」


考え事をしていた俺は、アリサの気配に気が付かなかった。


「あ、アリサか。いやーちょっとトイレに行きたくてなあ。」


「トイレなら反対方向よ。」


「おっと、そうだった。いやあ、寝ぼけててな、すまんすまん。」


「まったく、しっかりしてよね。あんたはあたしたちの....。」


「ん?」


「何でもないわ。じゃあ、私寝るから。」


「うーい。」


いやあ、危ねえ危ねえ、早速計画が破綻するところだったぜ。

それじゃあ仕切り直して....

地図とにらめっこをしながら屋敷から出た俺。

この屋敷ともおさらばか....

短い間だったが、悪くなかったな。


しばらく歩くと街に出た。

ふぅ、一安心だぜ。

無事勇者パーティーに気付かれず街に出た俺は、地図を頼りに南方に向かう...はずだった...


「アレス、なにしてるの?」


「ぬおっ!?」


急に背後から声をかけられたと思ったら、そこにはレイがいた。


「何だ....レイか....てっきりばれたのかと思ったぜ....。」


「ばれる?何が?」


「いやっ、こっちの話だ。お前こんな時間に何してるんだ?」


「アレスの作ったプルィンを食べに屋敷に向かうところだった。」


「なるほどねえ。っておま!勝手に来るのはやめろって言っただろ?」


「アレスの寝顔を見たくて....。」


「んん?何だって?」


「何でもない。それよりアレスこそこんな時間に何してるの?」


「俺?俺はそのお、あれだ、組織に少し用があってな。」


いや待てよ?ここでこんなこと言ったら....


「じゃあ私も行く。」


ですよねぇ....


「すまないなレイ、これから俺が行うのは極秘任務。誰にも言うなと言われている。お前に気付かれたのは誤算だったが....とにかく家に帰れ。」


嘘に嘘を重ねるようでちょっとあれだが、これで流石にまけるだろう。


「ならボスに聞いてみる。昨日アレスを見ていたけど、任務を任されてはいなかった。任されているなら今日のはず。私になら極秘任務でもボスは教えてくれるはず。それに私は組織のアジトで寝泊まりしている。どのみち向かうところは同じ。」


いよいよ困ったなあ。

どうしたもんか....

んーん、うーむ、ここまで言われたら仕方あるまい。


「あー、あのな、レイ?」


「何?」


「ぶっちゃけさっきの全部嘘で、ただ勇者パーティーから逃げてきただけなんだ。」


「そんなことだろうと思った。アレスのことは私が一番よく知っている。」


「うん、その俺のことを一番よく知っている君ならわかるだろうが、今から俺の隠れ家に向かうわけだが....このことは勇者パーティーには秘密な。あと、勇者パーティーから逃げたことはボスに秘密でよろしく。」


「......分かった。ただし条件がある。」


「条件?」


「私も隠れ家に行く。それが条件。」


いや、誰かに知られた時点でそれもう隠れ家じゃないんだよなあ....。

しかし、レイに秘密を守ってもらうにはそれしかないか。


「わかった。約束は....まあお前なら守るか。」


「交渉成立。」


こうして俺達は隠れ家へと向かうのだった。


いやーこんな時のために手入れしてて正解だったな。

隠れ家は埃を被る事無く、綺麗に整理されている。

まあ、ベッドこそ屋敷のに比べればあれだが、充分寝泊まりできそうだ。


「さてと、これから寝るわけだが.....。参ったな....ベッドが一つしかない.....。やむ負えん、俺は床で寝る、レイはベッドを使ってくれ。」


「私なら気にしない。一緒にベッドで寝る。」


こいつやっぱり年頃の女の子にしては色々とバグってるな。

あ~、あの時ばったり会わなければなあ。

まあ過ぎたことを悔やんでも仕方ない。


「俺は床、お前ベッド、これ確定事項。オウケイ?」


「秘密バラしちゃうかも。」


「よし!一緒に寝よう!うん、そうしよう!」


コイツにはかなわないぜ....

結局俺達は一緒のベッドで寝ることになった。

疲れていたのもあり、俺はぐっすり眠った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ふぁぁぁっ、良く寝たぜ。

ん?なんか体が重いような....

うん、まあなんとなくそんな気はしてた。


「レイさんや。俺は抱き枕じゃないんだ。離れてくれないか。」


「Zzz...」


こりゃあ、しばらく起きそうにねえな....

はぁ、これが毎日続くのか....

いや参った、本当に。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



屋敷にて.......


【勇者パーティー乙女の会】


「アレスさん起きてきませんね。」


「あいつのことだからどうせまだ寝てるんでしょ。」


「ふむ、しかし彼はいつもこの時間には起きているはずなんだが.....。」


「わたくし、起こしてきますね。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「アレスさん?起きてますか?」


「........。」


「返事がありませんね....やはりまだ寝ているのでしょうか?アレスさん、入りますよ?」


ガチャッ


「!?これは...急いで皆さんに知らせなくては!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「大変です!」


「どうしたんだヘレナ、そんなに慌てて。」


「とにかくアレスさんの部屋に来てください!」


「何なのよ全く....。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「これは....。」


「何よこれ....。」


「見ての通り、部屋が片付けられていて、アレスさんの持ち物が何一つとして置いてないのです....。」


「しかしなぜ....。」


「そういえば夜、アレスを見かけたわ。トイレに行くって言ってたけど....。」


「まさかその時この屋敷から出て行ったのでは?」


「でもその時アレスは荷物なんて持ってなかったし....。」


「何を言っているんだアリサ、彼は収納魔法を使えるじゃないか。」


「!?じゃあ、あの時....そんな、もっと早く気づいていれば....。」


「最近様子もおかしかったですし、何か関係があるのでは?」


「確かにそうだな。我々とも距離をとっていたし。」


「あのバカ!一言くらい言いなさいよ....。」


「アレスさん....。」


「アレス君....一体何があったんだ......。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



アレス『レイのやつさっさと起きねえかなあ....。』


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