第23話 おい、あれほど加減しろって言ったよな?

「はぁぁぁぁっ、ねみぃな。」


俺は早朝一人起きていた。

理由は簡単、組織に呼ばれたからだ。

多分魔力増強剤をパクってきた件のお咎めかな。


「あらアレスさん、今日は随分早いですね。」


「ヘレナか、いつもこの時間に起きているのか?」


「ええ、大体いつもこの時間に。」


「それはご苦労なことで。」


「こんなに早く起きたということは今日は何か御用がおありで?」


「ああ、ちょっと組織に呼ばれていてな。」


「なるほど、そういうことですか。」


「なんか浮かない顔してるけど、どうかしたのか?」


「いえ、気にしないでください。お気をつけて。」


「ああ、行ってくる。」




ヘレナ『せっかく2人きりでしたのに.....。』




・・・・・・・・・・・・・・・・・



「入るぞ~。」


ドアを開けてボスのいる部屋に入る。


「アレスか、なぜ呼ばれたかわかっているな?」


「ああ、魔力増強剤の件だろ?」


「ん?魔力増強剤?何のことだ?今回呼んだのは四天王の一人ミラヴォーネについてだ。」


ああ、そっちね。

てっきり怒られるもんだと思ってたわ。


「レイから聞いたぞ、勇者パーティーを鍛えてたらしいな。ミラヴォーネに備えての事だろう?」


「ああ、あいつらにはレベルが伴ってなかったからな。あのままでは何もできずに死んでいただろう。」


今回の訓練でそれなりに戦えるようになったから易々と殺されたりはないだろう。


「ふむ、とはいっても彼女達には実戦経験が足りない気がするが.....そこはどうするつもりだ?」


「一応訓練で実戦方式の戦いは行ったが、正直まだ浅いな。やはり俺が相手をするのはあまりいい手段とは言えない。」


私情を持ち込んでまた負けたりしたらどんなことをさせられるか......

考えるだけで恐ろしい。


「うーむ、ではこういうのはどうだ?」


俺はボスに耳打ちされる。

なるほどな、悪くない方法だ。

そうとなれば早速.....


俺は準備を終えて屋敷に戻った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ただいまー。」


「あらアレスさんお帰りになられたのですね。」


「アレス君か、おかえり。」


「あんたどこに行ってたのよ。」


「ちょっと野暮用でな。それよりもたまには羽を伸ばしにどこか出かけないか?」


俺はそれとなくみんなを屋敷から出そうとする。


「たしかにたまにはどこかに出かけたいですね。」


「そうだな、戦闘ばかりでは疲れがたまるしな。」


「まあ、あんたがどうしてもっていうなら行ってあげてもいいけど。」


「頼む、アリサお前がいないとダメなんだ。」


「ちょっ、な、なに言ってるのよ!ま、まあそこまで言うなら行ってあげる。」


俺達は支度をして屋敷の外に出た。





アリサ『急に何なのよ.....もう.....。』




・・・・・・・・・・・・・・・・・



屋敷を出ていざ街に繰り出そうとしたその時.....


「見つけた。」


そこにはレイがいた。


「おう、レイか、こんなところで何をして.....。」


ドスン!


「なっ、なにを......。」


バタッ


「ごめんアレス。」


「いや、ナイスだ。後は頼んだぞ。」


「任せて。」


俺は倒れて意識を失ったふりをする。


「君は......確か【紅】の......。」


「ちょっと、あんたアレスの仲間なんでしょ?何してるのよ?」


「みなさん、気を付けてください!」


「アレスには死んでもらった。私はもう【紅】の人間じゃない。ただの殺し屋。あなた達を殺しに来た。」


いや、まあ俺生きてるけどね?

とりあえず水中用無呼吸魔法を使って.....


「そんな!本当だ....アレス君が息をしていない......。」


「あんた、なんてことを!アレスの事好きじゃなかったの!?」


「好き、大好き。だから今回この仕事を受けた。」


「アレスさんが.....。」


「みんな、アレス君の分まで私達でどうにかするぞ!」


「あんたの目を覚まさせてあげる!」


「絶対に許しません!」


「ここに蘇生薬がある。これを奪ってアレスにのませられたらあなたたちの勝ち。」


うん、まあ、ただのウォレンジジュイスなんだけどね。


「『コンポジィムァジィック、ウィンドサンドウォール』!」


ふむ、サンドウォールに風魔法をのせてサンドウォールを強化し、容易に消し飛ばされないようにしたか。

俺との戦いで学んだな。

だが....


「甘い。」


「きゃっ!」


レイの攻撃(風圧バージョン)はしっかりアリサをとらえる。

あいつは殺意を基に戦うからな。

目くらましは通じない。


「まだまだよ!『重力操作』!」


「行くぞ!『グラビティスラッシュ』!」


良い連携だ。

立て直しも早い。

しかし....


グァン!


「アレスの時の方が重かった。これなら余裕。」


「くそっ、効いていないのか!?ヘレナ!身体強化魔法だ!」


「わかりました!この者達に祝福を、『身体強化』!」


使いどころが遅かったな。

もう少し早めに使うべきだった。


「『神速』!」


ここで神速を使うか。

なるほど、身体強化魔法は術者の魔力量に依存する。

『神速』を使うために温存しておいたのか。


「......なら私も使う。」


『神速』


ガァン!ギィン!グィン!



・・・・・・・・・・・・・・・・



「レイ、勇者パーティーの相手をしてやってほしい。」


「それはアレスに関係があること?」


「ああ、今後の俺(がいかに楽できるか)に関係のあることだ。」


「わかった。やる。」


「ただし、実力の半分、つまり本気で戦うのはなしで。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・



「加減難しい.....。」


「っ!隙ができた!ヘレナ!」


「承知しました!『ライトニングコンパ―ジェンス』!」


「何をする気?」


「よそ見していていいのかしら?『ウッドソイルオブシタクル』!」


ほう、アリサのやつ複合魔法をものにしたな。

土と木での拘束、レイなら余裕で抜けられるだろうが....

加減しろって言っちゃったしなあ。


「!?なにこれ。」


「今よ!セリス!」


「セリスさん!」


「はぁぁぁっ!『ライトニンググラビティスラッシュ』!」


聖剣に光属性の力をのせた一撃、見事だ。


ガギィン!


この辺でいいだろう。

どれどれ、起き上がるとする....


『影纏い』


ヒュン


レイの剣がセリスの首元にあてられる。

いや、『あてられる』、じゃなくて....

加減しろって言ったよな?

『影纏い』なんて俺でも最近使ってねえぞ?


「これで私の勝ち。」 


「くそっ、ここまでか.....。」


「悔しい....。」


「わたくしにはもうできることが.....。」


「私の勝ち、つまりアレスは私のもの。」


『ん?』


「おおい!なんで勝手にお前のものになってんだよ!」


「アレス君!?」


「あんた、生きて!?」


「アレスさん、無事だったんですね!」


「なあ、レイ、加減しろって言ったよな?」


「殺気に反応してつい加減を忘れちゃった。」


『ちゃった』じゃねえよ!

やっぱりこいつに任せるんじゃなくて、ミアにお願いすればよかった.....


「はぁ、まあ、みんな気付いているとは思うが、これは模擬的な実戦だ。レイにはお願いしてきてもらった。」


「そ、そういうことだったのか....。」


「なるほど、いきなりアレスさんがやられてびっくりしました。」


「でもあんた、仕事って言ってたじゃないの。」


「アレスからの仕事。それだけ。」


「はあ、心配して損したわ。」


「まあよかったじゃないか。」


「そうですね、結果的には良かったです。」


うんうん、本当によかったなあ。


「私が勝った。アレス、報酬は?」


ん?報酬?


「いや、そんな約束してないんだが?」


「報酬くれないと私泣いちゃう。」


いやお前そういうキャラじゃねえだろ。


『ジトー』


なんでみんなしてそんな目で見るのかね。

アリサはいつものことだけど、ヘレナは目が笑ってないし、セリスに関してはなんか無言の圧力が......


「わかったよ、今度なんか奢る。それでどうだ?」


「......わかった。それでいい。」


まあ、とにかくこれにて模擬実戦完了っと。

とりま今度、ミアに相談乗ってもらおう。









セリス『私はもしかして、嫉妬していたのか?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る