第三十二話 待機

「はい、それでは木村さんは部屋の外に出ていましょうか?」


 俺の前に回り込んで、ももちゃんが、涯無さんと茜さんの姿を俺から隠すように立つ。


「えっと……」

「出ていましょうか?」


 危険なことが万が一起きたときに、この場にいた方が良いような気もするが、ももちゃんがそう言うのならと、俺は立ち上がる。


「──んっ」


 ももちゃんの背後から、茜さんの吐息混じりの声が漏れ聞こえてくる。


「木村さんは、さっさと、出ましょうか」

「──あ……ふ、ぅ……」


 ももちゃんの声が、これまで聞いたことがないぐらい、冷たい。そしてその背後から漏れ聞こえてくる音は、どんどん大きくなっていく。

 その茜さんの声に被さるように、湿ったクチュクチュという音まで流れてきて、俺はようやく慌てて部屋を出る。


「──ふぅ……あれ? 俺一人だけ……?」


 気がつけば、他の人たちはみんな涯無さんの部屋に留まるようだ。


 一人、ポツンと佇む俺。

 しかし、ここにも俺の平穏はなかった。


 気がつけば無数の視線が、俺に向かってきている。


 俺がどうしたものかとその場に立っていたのがいけなかったのだろう。こちらを見ていた特調の女性スタッフらしき人たちが我先にと近づいてくる。


「す、スキルマスターさん、今って暇になりました?」「ビンビンですー」「カンスト王さん、是非アンケートを……」「か、解剖……」「魂、きれっぱしを……」


 口々に話しかけてくる特調のスタッフたち。そのうちのいくつかは言葉だけでも相当危険そうなフレーズだった。


「す、ストップストップー!」


 俺が声をあげると、シーンと静まり返る。しかし間近でとても期待に満ちた無数の視線が俺に集まり、まるで突き刺さるかのようだ。

 ここまで期待された視線を女性陣から向けられると、完全にむげにもしにくい。


「あー、危険なのは、ダメですよ! 特に解剖とか、魂とかはなしです!」

「そんなー」「ぴえん」


 特にのところで崩れ落ちる女性スタッフ二名。


「じゃ、じゃあ他のは──」

「あと、時間がかかるのもだめです! 」

「────」


 俺の追加の指定に、残った特調のスタッフの方たちが顔を寄せ集めてなにやら相談を始める。

 専門用語なのだろう、俺の知らない単語がポンポン飛び交い、相談の内容はさっぱりだった。


 ──なんだか想像してたより、ここのスタッフさんたちって仲良しっぽいな。もっとこう変人な一匹狼の集まりかと思ってたけど……


 そんなことを考えている間に、相談が終わったのだろう。スタッフのうちの一人、たぶんこの中で一番若手っぽい白衣の女性が、代表して話しかけてくる。


「す、スキルマスターさんは、自分の強さがどれくらいか、知りたくはありませんか?」


 それは、俺にとってもなかなかに興味深い提案だった。

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