第三十八話 今後の目標
俺は、茜さんたちと無事に特調を脱出すると、事務所へと戻ってきていた。
いつもの応接室。
「皆さん、お疲れさまでした」
ももちゃんが、お盆にコーヒーをのせて応接室に入ってくる。
俺は立ち上がると、応接室のドアをおさえる。
「ありがとうございます、八郎さん」
「いえいえ」
なぜか茜さんからのじとっとした視線を感じながら、俺は席に戻るとももちゃんからもらった紙コップに入ったコーヒーを一口飲む。
三千年お休みトラップに捕らわれる前からあった、いつものカップ式自動販売機のコーヒーの味。
変わらないそれが、ほっとした気持ちにさせてくれる。
──ネットの進歩とかは、ぶっちゃけついてけないから、こういう変わらないものがあると安心するな……
「さて、それでは八郎さん、茜ちゃん。情報のすりあわせと今後の方針を決めましょうか」
ももちゃんからの言葉に、ほっとしていた応接室にピリッと緊張がはしるのだった。
◆◇
「──ということは、俺と茜さんのしている指輪は何かの鍵だと」
「そうです。そして特調の調べによると、過去に一度だけ、同じ味のものがあったと言っていました」
味、といったところで顔を赤らめる茜さん。
指輪のはまった指を、反対の手で強くさすっている。
──たぶん、例のあの感触を思い出してしまったんだろうな……
俺はそこまで考えて、できるだけそんな茜さんを見ないようにしようと気を使う。
「それで、その過去にあったと言われる鍵は、どこで使えるかは?」
「判明していました。それは──」
茜さんに代わってももちゃんが告げる。
「『原初の大迷宮』、世界で最初に生まれたとされる迷宮です」
「なんとまあ……」
それは三十年前に漆級だった俺ですら知っている名だった。世界で一番有名な迷宮。
迷宮は踏破されない限り成長を続けるため、『原初の大迷宮』はその名の通り世界で一番大きく深い迷宮だと言われていた。
曰く、既にその底が抜けているとか。一定階層より先に進むと帰れなくなるとか。全ての迷宮の母たる存在だとか。
三十年前ですら、そんな噂がまことしやかにされている迷宮だった。
「それでその過去にあったとされている鍵は使われたあとはどうなったのですか」
「それは、特調でも、わからないと言っていました」
「わからない、ですか」
──本当にわからないのか、それとも……。まあ、今は考えても仕方ないか。
「それで、今後の方針なのですが──」
俺が考えている間にも、ももちゃんが話を続ける。そこに復活した茜さんが参加する。
「はい、ここは『原初の大迷宮』でダンジョン配信、しかないと思いますっ」
びしっと手をあげて意見を述べる茜さん。
「まあ、そうなるよな」
「そういうと思っていました」
苦笑いをして顔を見合わせる俺とももちゃん。
身を削って情報を得てきたのは茜さんだしなと、俺はその茜さんの意見を受け入れるのだった。
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ここまでで第一章となります。
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