第二章

第三十九話 大迷宮街で配信

「うぅ、緊張してきた……」

「八郎さん、固いですよ、いつも通りでいつも通りでー。それでは配信始めますよ」


 配信を開始したドローンカメラの前で、茜さんが楽しそうに話し始める。


「皆さん、お久しぶりです! 長らく配信があいてしまってごめんなさい。今、私たちは原初の大迷宮の麓にある、大迷宮街に来ています!」


 'お、大迷宮街か'

 'え、どういうこと。あかねちゃんたち、原初の大迷宮に潜るの?'

 'というか、これはいわゆるデート配信というやつでは?'

 '言われてみれば……'

 '木村、タヒね!'

 '木村、爆発しろっ'


 俺は流れるコメントを素早く目の端で確認しながら、生き生きと話す茜さんを眩しく思いながら見ている。

 久しぶりの配信で、とても楽しそうな茜さん。


「そうなんです、これからしばらくはここ、原初の大迷宮に潜ろうと思ってます」


 視聴者のコメントを拾って答えながら、その場で両手を広げてくるりと回転する茜さん。ドローンカメラを正面に捉えて、ピタリと回転を止める。


「ほらほら、八郎さんも話して話してー」

「……き、木村八郎です。今、俺たちは原初の大迷宮の麓の大迷宮街にきてまふ」


 ''いや、知ってるし'

 'まじめかっ'

 '噛んだ'

 '噛んだな'

 'カミカミきむきむ、きたー!'

 '待ってた。カミカミ配信助かる'

 'これぞきむきむの配信の醍醐味'


 前回の配信に引き続き、盛大に噛んでしまう。

 動画に流れるコメントでも大量の突っ込みが入っているが、なぜだが優しげなコメントが多い。


「う、うぐ。噛んだ、すまない。それと、きむきむって俺のことか?」


 'お、きむきむがコメント拾えてるぞ'

 '成長したなきむきむ'

 'この調子で頑張れよ、きむきむ'

 'まあ、これも我らが茜タソの教育の成果だろ'

 '茜タソの教育! 俺も教育されたい'

 'それで茜タソとはどこまでいったんだ'

 'そうだそうだ'

 'それよりも、二人が壁に消えてからの経過はどうなったんだ'

 'それそれ!'

 '俺もそれは気になってた!'


 コメント欄で、前回の配信の最後、事務所ストップがかかった部分についての質問が一気に増える。


「あー、前回は急に配信を止めてしまって申し訳なかった。簡単に説明する。その、それで、何で俺たちが大迷宮街に来ているかの説明にもなると思う」


 'わくわく'

 'きむきむが噛まない、だと!'

 'まあ、まて。ここからだ'

 'そうだぞ、欲しがりすぎはみっともない'

 '俺は茜タソが話すのが聞きたいがな'

 'なーに、きむきむだ。すぐに茜タソのフォローが入るさ'

 'だな'


 コメント欄で、経緯の説明とは、何か違うことを期待されているのを確認すると、俺はなぜか急に気分が落ち着いてくる。


 俺は苦笑いを浮かべると、マガツヒノセオリツについて、ももちゃんと茜さんと相談して決めた範囲で話せる部分を、ドローンカメラに向けて説明するのだった。

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