第二十六話 特調
「マガツヒノセオリツ! うっわ、名前だけでゾクゾクしちゃうわー。配信見てたけど、まさかそんなことにねー。あ、ここは当然割り勘よ、モモちゃん。店員さん、パフェ、同じの二つ追加でーっ」
俺と茜さんはモモちゃんにつれられてファミレスを訪れていた。
目の前でパフェばかり食べているのは紺の地味なスーツを着た、モモちゃんと同世代に見える女性。すらりとした体のどこにそんなに入るのか不思議になる食べっぷりだ。
「うちの会社、そういうとこどけ厳しくてねー。入る前はもうこれ、接待でパフェ食べ放題じゃねと思ってたのよ。ほら良くドラマとか入札の談合とかしてるじゃん? あんなん、全然だめ。全部自腹よー」
「それは大変ね。で、りおんちゃん。さっきの話だけど」
「任せて任せて。内々に課長には話し通しとくわー。間違いなく特調案件だし。悪いようにはしないから安心してー、モモちゃん。それにしてもあちらさんじゃなくてうちに話して正解よー」
太鼓判を押してくれるりおんちゃんとモモちゃんが呼んだ女性。それにたいして明らかにほっとした様子を見せるモモちゃん。俺は話の半分も理解できていなかったが、あのモモちゃんが安堵しているならと安心する。
モモちゃんから事前に聞いていたのは、目の前のりおんちゃんは
──まあ、りおんちゃんの言っていたあちらさん、というのはダンジョン管理組合も下部組織として所属しているダンジョン庁のことなんだろうな。
俺は色々複雑そうと思いながら、追加のパフェを食べ尽くしていくりおんちゃんを眺める。
ちらりと茜さんはどうしているかとみると、まるで借りてきた猫のように大人しい。
──というか、怯えている? まさか……
良くみるとぷるぷると小刻みに震えているようだ。
俺は思わずそっとテーブルの下で手を伸ばして、茜さんの片手を勇気づけるように握ってしまう。
ピクッと体を動かし、こちらをちらりと見る茜さん。
目線が交わる。
──よかった。強ばっていた肩の力が少し抜けたみたいだ
俺は安心して手を離す。そんな俺たちを、モモちゃんは少し悲しげに、りおんちゃんは肉食獣のような笑みを浮かべて見ていたことには残念ながら気がついていなかった。
「それで木村さんたちは再びマガツヒノセオリツと会いたいと?」
「そうです」
りおんちゃんとモモちゃんの会話が続く。
「そうねぇ。うちに来てくれたらその指輪とか詳しく解析できるかもー。どうする木村さん?
うちでも木村さんの事は時の人としてめっちゃ話題だから、来てくれてら歓待するよー」
そういってこちらを見るりおんちゃん。皆の視線が俺に注がれる。
──歓待って、なんだか怖いんだが……まあ、さっきもライブ配信を見ててくれたって、言ってたな。それはありがたい事なんだろうけど。
俺はその場にいる女性陣の顔を一人一人確認すると、意を決して返事を口にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます