第二十七話 権力
俺たちは結局、あのまま、りおんちゃんについてきていた。
最初は俺だけ特調にお邪魔しようと告げたのだ。というのも茜さんの怯え具合が半端無かったので。
しかし、モモちゃんからは強硬に。茜さんからはすがりつくように拒否されてしまった。
その二人からの拒否のタイミングで、りおんちゃんがお花摘みに離席する。まあ、たぶんタイミングはわざとだろう。
席を完全に離れ、りおんちゃんの姿が見えなくなったところで、茜さんがとても早口に説明してくれた。
曰く、特調は外事案件についてはほぼ無制限の恩赦が与えられること。
曰く、個々の戦闘力ではなく組織として目的遂行に手段を問わない姿勢は界隈に長くいる者たちの間では有名で、非常に怖れられている。
曰く、特調には変人しかいない。
そんな感じのことを告げ、だから、俺を一人で特調送りにするなんてとんでもないっと、茜さんは俺の腕にすがりついてきたのだ。
そしてモモちゃんも、そんな茜さんの言を否定はしなかった。所々、口を挟みたそうにはしていたが。
そんなわけで、俺たちは結局三人で特調を訪れていた。
「ここですよー。手続きしてくるので待っててくださいねー」
スマホをポチポチしながらビルの中へと歩いていくりおんちゃん。
俺はその目の前の地味なビルを見上げる。
都心の一等地に立っているそれはただただ地味だ。何も知らなければ、絶対にただ通りすぎてしまうぐらい印象に残らない作り。
「私もここまで近づくのは、はじめてです」
「モモちゃん、手続きって?」
「ここに来るまであかりちゃん、ずっとスマホを操作していましたよね。たぶんですが電子的に先に済ませられる申請をしていたのだと思います」
「なるほど?」
電車の中でひたすらスマホを弄っていたりおんちゃんの姿を思い出しながら俺は相槌をうつ。ただ、実際のところ電子的に手続きというのが良くわかってはいなかったが。
「で、今はたぶん、実際に私たちがここにいないと出来ないことをしているんだと思います」
「モモちゃんのいう通りよ。視線を感じる。顔写真と──身体データの計測をされているみたいね」
ピクリとも体を動かさずに告げる茜さん。
「……あとはたぶん、声紋もとられたかも」
「な、なるほど。厳重なんだね」
そうやってしばらく路上で待っていると、ようやく、りおんちゃんが戻ってくる。
「いやーお待たせしましたー。どうぞどうぞー。入っていいですよー」
ちょいちょいと手招きしている。
「ようこそ、世界の中心へ。なんちゃってー」
りおんちゃんの笑えない冗談を聞きながら、俺たちはビルの中へと足を踏み入れるのだった。
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