第二十八話 歓待

「おいあれ、スキルマスター木村じゃないか」

「うわほんとだわ。この薄さの魔素でもビンビンに伝わってくるわ~」

「カンスト王じゃっ」

「いいねいいね。あのスキルだけ鍛えた人間特有のアンバランスな感じ。筋繊維一筋一筋じっくり解剖してみたいな」

「さ、三千年の時間が、せ、精神に変調を及ぼすはず……こ、魂魄の解析、先端のほんのキレっぱしでいいから、や、やらせてくれないかな……」


 踏みいった特調のオフィス。そこは想定外に整っていて、明るい。どちらかといえばオシャレオフィスみたいだった。

 ただ、やはり問題はそこにいる人々だろう。


 一瞬静まり返ったあとに、皆が皆、俺だけを注目してなにやら好き勝手なことを仲間内で話していた。

 しかも、どれも基本的に全て物騒な内容。


「木村さんはあまり離れてフラフラしない方がよいかもですよー。みんな興味津々なんで。まあ、特別な魔石で少しですけど建物全体が魔素に満ちているからスキルは使えるはずです。木村さんなら何かあっても蹴散らせるとは思いますけどー。モモちゃんとそちらの壱級の人は、適当にそこら辺見て回っても大丈夫よー。みんな、興味ないからー」


 辛辣なりおんちゃん。しかし茜さんは明らかにホッとした風だ。

 俺は全く安心できないが、とりあえずスキルが使えるかと『ブルートゥース』を試してみる。


 ──あ、繋がった。茜さん?

 ──八郎さん。たぶんこれ、傍受されているわ

 ──え、それもスキル?

 ──とりあえず詳しくはあとで、ね


 とりあえずスキルが使えることは確認出来た。

 とはいえ、ブルートゥースが傍受できるなら当然妨害する手段も考えられる。


 ──何かあったときの連絡として、使えない可能性もあるのか。ままならないもんだ。


 俺はそんなことを考えながら、一身に注目を浴びつつりおんちゃんのあとを追ってオフィスのなかを進んでいく。

 普段茜さんといると、基本的に注目を浴びるのは有名なダンジョン配信者である茜さんの方だ。

 注目をあびて、一挙一動にあれこれ言われるというのはなかなか大変なんだなということが、良く実感できる。


「うわ、みた?! 今、ブルートゥーススキル使ったっ! カンストしているっ! それ以上の精度で、波長、めちゃ綺麗に揃ってるっ」

「話している内容は平凡ねー。逆にそそるわー」


 どうやら本当に傍受されているらしい。


 ──いやいやいや、隠さないにもほどがあるだろ!


 思わず内心ツッコミを入れていると、ぴたりとりおんちゃんの足が止まる。


「着いたわ。ここでその指輪の解析をしてもらうよー」


 オフィスの隅に隔離されるように作られたスペース。

 ドアにはびっしりと手書きで何かの文字が書き込まれている。

 オシャレオフィスの中でいっそう目立つ異物感に、どうしても高まらざるを得ない、緊張感。

 そんな俺たちの緊張した様子をにっこりと笑いながら、りおんちゃんがドアへと手をかけた。

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