第二十九話 指輪の解析
覚悟を決めて踏みいったその部屋はとても整然としていた。
整えられ、清潔に磨きあげられた機材。
様々なモンスターの部位と思われる肉片がホルマリンに漬かり、寸分のズレもなく並べられた棚。いくつかは、見覚えがある形をしている。
その隣の壁棚にはズラリとファイルが並んでいる。ただ、その背は不思議なことに無地だ。
それらの整然とした様子は、入り口のドアに書き込まれていたまるで呪言のような物から受ける印象とは全く逆だった。
どちらかといえば部屋の主は、神経質なほどに几帳面な性格なのだと推察できる。
「ようこそいらっしゃいました。木村八郎さん。秋司茜さん。百々百々子さん。りおんさんからお話は伺っております」
「りおんちゃんでいいってー。
りおんちゃんが紹介してくれた涯無さんに、俺も挨拶を返す。
一見、普通の人だ。地味な服装に、口調も普通。これまで見てきた特調の方々の中で、一番普通そうに見えた。
──良かった。エキセントリックじゃない人もいるんじゃないか。茜さんが変人しか居ないだなんて脅すから……
「それではさっそくですが、お二人の指輪を拝見してもよろしいでしょうか」
「はい」
「あっ。ちょっと待ってください! 大変失礼ですが、この調査では私たちの安全は保証されます?」
さっそく手を出そうとする俺の手を抑えるようにして、涯無さんに問いかける茜さん。
それは普通に考えれば大変失礼な言動だ。さすがに止めようと茜さんの方を向くと、ぷるぷると震えているのが、はっきりとわかる。
恐怖をたたえた瞳。
これまでで一番、恐怖を感じているのが伝わってくる。
俺はなぜか無言で互いの顔を見ている茜さんと、涯無さんを見比べる。しかし二人とも相手の顔を眺めるばかりで、埒があかない。
「ももちゃん?」
何か知ってる? という意図を込めて名前を呼ぶ。それだけで、ももちゃんは理解してくれたのだろう。そっと俺の耳元に顔を近づけて、囁くように告げる。
「そちらの涯無さん、特調の、班長さん」
──えっと、りおんちゃんが話を通しておいてくれるって言ってた、課長って人よりも偉い人ってことだよね、涯無さんて。というか、りおんちゃんて、自分のボスも、ちゃん付けなのか……。
俺は思わずそんなことが気になってしまう。
その間も、茜さんも涯無さんも一切言葉を発しない。
──茜さんが無言なのはわかるけど、涯無さんは、なんでしゃべらないんだ? さっきまで普通に話していたよね……?
俺たちの指輪の解析。
それを頼んだことになる、探索者からも恐れられている変人達の親玉たる人物は、どうやらやっぱり変わっている人のようだった。
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