第四十二話 ファッションセンス
──つ、疲れた……
茜さんと静ママには、一切の容赦というものが存在しないようだった。
「どうどう? 茜ちゃん? うちのお店の秘蔵の品よ?もう、これ以上のコーディネートはないと思うわ」
「──うん、静ママ、バッチリ」
「そうよねっ! 落ち着いた中にも垣間見える大人の魅力がかなりアップしていると思うの」
──お、大人の魅力? これがそうなのか? 現代のファッションはわからん……
三十年前でさえ、ファッションへの興味なんてほとんどなかった俺だ。
最新ファッションへの造詣なんて、皆無に等しい。
ただ、店の奥深くへと連れ込まれ、試着室で茜さんと静ママの言いなりに持ち込まれた服を着替えを続けて来たのだ。
だが、そのいつ終わるとも知れないお着替えも、ようやく終わりそうだった。
そんなわけで、俺は今自分の着ているものが果たして似合っているのか否か、全く自信がなかった。ただまあ、なんとなく違和感はあるような気がする。俺の三十年前のセンスから見て、だが。
ちなみに配信は継続されていた。
──そうだ。こういうときにコメントを確認すればいいんだよな。いや、決して茜さんたちのセンスを疑っている訳ではないんだ……
内心、そんな言い訳をしながらそっとコメント欄に目を通していく。
'いいんじゃないか'
'だな'
'そうどな'
'おう、そう思う'
なんだがコメント欄が適当というか、素っ気ない。
'野郎の服とかどうでもよいよなー'
'だな。茜タソの新衣装はまだですか'
そこまでよんでようやく気がつく。たぶん配信視聴者は男性の割合が大きいのだろう。だとするとまあ男の服装とかは確かに気にしない視聴者は多そうな気がしてくる。
そんなコメント群をみて、なんとなく安心するというかほっとしてしまう。
'攻めてるねー'
'嫌いじゃない'
'茜タソ、独特のセンスだな。今の流行りをうまく外してるけど、まとまりは作れてるとみた'
所々、有識者らしきコメントもあったが、俺はそれは見なかったことにして、そっとコメント欄から目をそらすのだった。
「よし、八郎さん! 早速、原初の大迷宮、一層に行ってみましょうか!」
「──え、準備とかはいいのか?」
「一層なら、問題ないの。それにちょっと実際に触りだけでもみといた方が色々といいところだから」
「お、おう。わかった」
良くわからないが茜さんが言うのだからそうなのだろう。
「茜ちゃんも八郎ちゃんも、また来てねー」
俺は三十年前の初級探索者時代からすると、目の飛び出そうな金額の支払いを済ませ、茜さんと連れだって原初の大迷宮へと向かったのだった。
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