第四十三話 原初の大迷宮一層

「ここが、原初の大迷宮か。他の迷宮に比べてそんなに変わったところには見えないけどな」


 配信を継続したまま、俺は茜さんと一緒に原初の大迷宮へと来ていた。

 個人的には、移動中は配信を切っておきたいなと思ったのだが、茜さんがうまくつないでくれていた。


 ──茜さんのトークテク、すごいな……到底真似できそうにない。


 配信者としての茜さんの実力が卓越していることが、こうして一緒に配信しているとひしひしと伝わってくる。


 歩きながら話していても、息の乱れ一つ感じさせないし、移動しながらのドローンのカメラの画角の把握も完璧にしているようだった。


 そうして感心しながらたどり着いた、原初の大迷宮。

 その入り口を入ってすぐの一層。


 パッとみた感じの作りは、石造りの壁と床で、迷宮としてはごくごく標準的なものに見えた。


 'あー。きむきむは知らないのか'

 'そういや原初の大迷宮がこうなったのって、ここ十年ぐらいだっけ'


 俺の発言に、早速コメントがついている。

 どうやら俺の三十年の浦島太郎ブランクは、日常生活だけではなく、こんなところにまで及んでいたようだ。


「茜さん、それでこの原初の大迷宮が特殊なことって何なんですか?」

「上です」

「上?」


 そう言われて、上を見てみる。


「天井が……見えない? え、途中から暗くなって……」

「そうなんです。天井がないんです。とりあえず今人類が到達している範囲では、原初の大迷宮はどのフロアも天井がありません」

「なるほど……これは確かに厄介そうだ」

「あ、わかりました?」

「上から、何が降ってきてもおかしくないってことですよね」

「そうです。それで……八郎さんなら、もしかしたら探査系のカンストスキルで、上がどうなっているか、わかるかも。なんて?」


 そういって、いたずらっ子ぽい表情をする茜さん。それは茜さんとしてはとても珍しい表情だ。


 そのせいもあるのか、配信動画のコメント欄が爆発したかのように大量にコメントが流れていく。


 '茜タソ、かわいい'

 'その表情は反則級'

 'なにこのかわいさ'

 '十年間の謎が解明されるかもだと!'

 'え、もしかして歴史的瞬間に立ち会っちゃってる?'

 '茜タソ、きむきむの使い方冴えてるー'

 'わくわく'

 'はやくはやく'

 '祭り会場はここですか'


 そのコメントの半分は茜さんの可愛さを称賛するものだったが、残りは俺のスキルで原初の大迷宮の未知の部分が解明されるかも、という好奇心に寄るものみたいだった。


「わかりました。それでは早速」


 俺はコメント欄を意外に思いながら、カンストしている探査系のスキルを使用するのだった。


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