第四十一話 ショップにて
「──茜さん、ここ、なのか?」
「そうですよー。バッチリ撮影許可はもらっています。さあ、入りましょう~」
'よりにもよって、ここかー'
'ここね。確かに茜タソの装備品も結構な割合でこのショップで買ってたしな'
'きむきむは初見っぽい? 下録りとかしないの?'
'そこら辺は他の配信者に比べてダンジョン配信者はやらないって聞いたぞ'
'あ、それ、聞いたことある。なんでも普段から臨機応変に配信対応する練習とか'
'なるほどね。これも茜タソからのきむきむへの教育ってことか'
'だそうだぞ。頑張れきむきむ'
俺が全体的にピンク色をした、一見コスプレにしか見えない店の外観に呆然としている間に、茜さんがさっさと店に入っていく。
「
「あらー。茜ちゃん、いらっしゃい! 今日も可愛いわねー」
茜さんの声に、静ママと呼ばれた仕上がった筋肉の中年男性が店の奥から現れる。
静ママのフリフリとピンクのドレスから覗く二の腕の筋肉は鋭く引き締まり、ヒールの高い靴でも全くぶれずに歩く姿勢から体幹の強さが見てとれる。
まあ、端的に言って、静ママはかなり強そうだった。
「そっちの子が茜ちゃんのいい人ねー。はじめまして」
「あ、どうもはじめまして。木村八郎です。今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ楽しみにしてたのよん。茜ちゃんが男を連れて来るなんて、初めてなんだから」
特大のウィンクを挨拶代わりに見せてくれる静子ママ。
「まあ、見ない傷のつきかたねん。ふーん、八郎ちゃんて、見た目によらず、とっても激しいのが好きみたいね。あんまり茜ちゃんに負担かけちゃ、ダメよん?」
俺の装備品についた傷を真剣な眼差しで見つめる静ママ。そっと指先で、繊細な仕草で俺の装備品の傷を撫でると、そんな風に釘を刺されてしまう。
俺はその指摘に思わず真顔になってしまう。確かにスキル任せの雑な戦い方になりがちかもと、薄々感じていたのだ。
それを静ママにズバリと指摘された形になる。そんな図星な指摘だったが不思議と嫌な気分にはならなかった。
それはたぶん静ママが真剣に俺と茜さんのことを心配してくれているのが伝わって来たからだろう。
「──すいません、出来るだけ気を付けます……」
「あら。八郎ちゃんて、素直で、とってもいい子じゃない。ね、茜ちゃん」
「そうなんです。それで今日は全身のコーディネートをお願いしたいの、静ママ」
「あらー。それは腕が鳴るわ。静、がんばっちゃう。ほらほら、八郎ちゃん、こっちこっちー」
「さあ、行きましょう、八郎さん?」
そうして、俺は二人に誘われて、ピンクでフリフリなお店へと足を踏み入れたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます