第三十四話 ゴーレム

「んっ!」


 アケビちゃんが俺へと持ってきたのは、ヘルメットのようなもの一つと、アームバンドのようなものが四つ。そのアケビちゃんの背後にはゴーレムらしきものが数体。


「あ、スキルマスターさん。その、バンドは両手首、両足首につけるんです……でも、アケビちゃん。これだと──」

「なんだぁ!?」

「う、ううん、何でもないです……」


 白衣さんが、アケビちゃんに向かって何か言いかけて、結局やめてしまう。


「あの、今つけますね。そこに立って下さい」


 白衣さんがアケビちゃんからバンドを取ると俺の足元に屈みこむ。


「あ、すいません」

「えっと……静脈とがここで踵骨神経がここだから……」


 俺の足首の肌にさわさわと触れる白衣さんの指先がくすぐったい。


「えっと、あのー」

「あっ! そうですよな説明してなくすいません。す、スキルマスターさんはゴーレムについてどれくらいご存知ですか?」

「ゴーレムですか? いやー。さっぱりですね。ゴーレムってあれですよね。モンスターの?」

「それも、ゴーレムですね。──反対の足も失礼します」


 ようやく片足終わったと思ったら次は反対の足だった。そのまま説明を聞きながら手首にもつけてもらう。


 さわさわする感触に耐えながら聞いた説明によると、このバンドをつけ、ヘルメットを被って俺が動くことで、アケビちゃんがカスタマイズしたゴーレムへ、俺の動作の総合的なデータを含む、様々なデータが伝わるらしい。

 いわゆるゴーレムを依代にするようなものなのだとか。

 白衣さんが、ゴーレムなら人にはちょっとつけられないような検査器具をつけられるでしょと笑顔で言っていた。


 何でもダンジョン産の最新技術らしい。

 俺は、お休み部屋にいた間に生じた技術革新に感心していると、白衣さんが最後にヘルメットを持って近づいてくる。

 これもつけてくれるようだ。

 背伸びする白衣さんがつけやすいように軽く屈んであげる。


「はい、できました。アケビちゃん?」

「ふん、いつでも」

「それでは、スキルを軽く使ってみてください。」


 ヘルメットを被せると、白衣さんが離れていく。


「じゃあ動きますねー」


 ──たしか、移動力強化系のスキルツリーで、二つ目に習得する「俊足」で移動してモンスターをひき殺したらバズったんだよな。それから試してみるか。


「ふん、どうせ大したことないだ。ガツンとこいやぁ。おら、さっさとしねーかっ」


 アケビちゃんの捨て台詞に、俺は軽く肩をすくめる。


 ──そうだよな、せっかくゴーレムを使った最新式の測定で、ちまちま一つ一つ測定しなくてもよいんだった。じゃあ、せっかくなのでカンストした身体強化系のスキル六系統のスキルツリー、最後に習得する、いわゆるラストスキルを同時発動して、と。


 俺はアケビちゃんのお言葉に甘えて、攻撃力強化、防御力強化、移動力強化、魔力強化、精神力強化、幸運強化の六系統のカンストしたラストスキルを発動する。


「……えぁ、あぁ……。ちょっと、おいまて──」


 なぜか急に慌てた様子のアケビちゃんの制止は間に合わず。

 俺は、そのまま、軽く正拳突きを放ってみた。

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