第二話 バズる
「はい、ステータスです! それと探索者ナンバーは115246です」
俺はダンジョン管理組合の事務所の奥でステータスを開示していた。
【木村八郎】lv82
《マスター済みスキル》▼
《スキル》▼
ステータスはスキルと同じように基本的にはダンジョン内でしか開けないのだが、管理組合にはだいたい一つは専用の魔石が事務所の奥とかにあって、その近くならこのようにステータス開示ができるのだ。
「はい、あの。その探索者ナンバーは失踪宣言がされてます……って、レベルは、八十二!」
「あああ……間に合わなかったか。じゃあライセンスの再取得処理を申請したいです。うん、レベル?」
「えっと、あの。その。責任者を呼んできますーっ!」
そういって、受付の女性が奥へと走っていく。
「あー。本当だレベル上がってるよ。これはもしかして出てくるときにモンスターを走って引き殺して来たからか? 八十二って高ランク探索者並みじゃん。なんだか全然実感がわかないな……」
俺がステータスを見返していると、先程の受付の女性が人をつれて戻ってくる。
「貴殿が探索者ライセンス再取得を希望という木村さん?」
「あ、そうです」
「はじめまして。副組合長の霜月カリンよ」
俺とそう年の変わらなそうな、しかしとても仕事の出来そうな女性が挨拶してくれる。
「よろしくお願いいたします」
「まずは、一連の経緯を聞いてもよろしい?」
「はい、実はですね──」
俺はトラップを踏んでからここにくるまでのあらましを伝える。
「面白い。面白いわ。三千年お休みトラップとは。なーに、探索者としてのライセンスは任せて。すぐに木村さんに相応しいものを用意しましょう。それと、木村さんが助けたのはたぶん、秋司茜壱級探索者ね。今、常迷の迷宮にもぐっているのは彼女だけのはず」
「壱級! はあ。それはまた、雲の上の相手でしたか」
「何を言っているの、木村さん。貴方はその雲の上の相手が苦戦した相手を一撃で倒したのよ?」
「霜月副組合長、やはりネットでは炎上騒ぎになっています」
そういって、薄い板のようなものを見せてくる受付の女性。
何かの文字がたくさん並んでいる。
──小さいテレビ? にしては薄いな。
「あの、ネット? 炎上騒ぎ? それと、その薄いのは?」
「三十年前だとネットはなかったかな。これはタブレットよ」
「一応ありました。でもどちらかと言えば好事家の人たち向けみたいな感じで……」
「今は、誰もがネットを見ているの。そして木村さんの活躍は、すべて秋司茜のライブ配信で全世界に向けてリアルタイムで放送されていたという訳よ」
どうやら俺がお休み部屋にいた三十年で、世界は劇的に色々と変わってしまったようだ。まさに浦島太郎状態かと、憂鬱になってくる。
「よく、わかりません。あの、ライブ配信って、ラジコンみたいなのもので、ですか?」
「そう。ドローンで撮影、配信していたはずよ」
「えっと、それは、俺はどうしたらいいんでしょう? 炎上ってなんだか言葉の響き的に不味そうな感じが……」
「ふふふ、そうね。炎上は大変なことよ。そうだ、秋司壱級探索者に、出演料兼迷惑料でも請求すればいいんじゃないかしら? ほら、ちょうど来たわ」
「え?」
霜月さんが指差した先には、黒髪を振り乱して事務所の部屋へと走り込んでくる女性の姿があった。
それは確かに俺が横殴りしてしまったあとに、怪我を手当てスキルで治した女性だった。
「はぁ。はぁ。いた。いました……」
「秋司さん?」
「はぁ、はぁ。……はい」
「貴方のライブ配信にこちらの木村さんが映りこんでしまったそうね。どうやら炎上騒ぎになっているみたいよ」
「はい、そうです。その件は誠に申し訳ありません。木村さんと、おっしゃるのですね」
そこでなぜか笑顔を向けてくる女性、もとい秋司さん。
「木村さん」
「は、はい?」
次に霜月さんが俺に話しかけてくる。
「木村さんは秋司壱級探索者に、ライブ配信の出演料兼迷惑料を請求しますか?」
「えっと……」
俺は思わずこちらを見つめてくる二人の女性の顔を交互に見てしまう。
不思議そうにしていた秋司さんが、まるで助け船を出すかのように何かを取り出しながら俺に話しかけてくる。
「木村さん。是非請求してください。命を助けてくださった木村さんが私の動画チャンネルのせいでご迷惑をおかけしてしまって、そのままというのは心苦しいです」
そういって取り出した何か薄いな板を操作する仕草をする秋司さん。先程のタブレットというものより小さいが、よく似ている。
「じゃあ、その。お言葉に甘えて」
「はい。もちろんです。それでいかほどになりますか?」
「こほん。ダンジョン管理組合、副組合長としての一つ提案です。請求内容は金銭ではなく、木村さんの現代への適応のお手伝いを、秋司壱級探索者がする、というのがいいかと思うの」
「──どういうことですか?」
不思議そうな顔をする秋司さんに、俺の経緯を説明する霜月さん。
「なるほど……」
「さすがにそれはご迷惑では?」
考え込む秋司さん。その様子をみて、俺は辞退しようと声を上げかける。
その俺を手で制して、霜月さんが続ける。
「つまりは、お二人でパーティーを結成されてはどうかな、という提案です」
「え、ええ?!」
何を言い出すんだと、俺は思わずあきれ顔を向けてしまう。
──秋司さんも、よく知らない男と急にパーティー結成なんて。そのお手伝い以上に絶対に嫌だろうに……
「良いですよ」
「そうです、さすがにそれは無いかと……え、本当に良いのですか?」
「はい。パーティーを組むのは、お詫びが終わったあとにお願いしようと思っていました。木村さんはお嫌ですか」
「いや。もちろん、そんなことはありません」
「はい。では、これからよろしくお願いしますね。でも先に三十年のブランクをお埋めするお手伝いですね。お任せください」
そういってにっこりと笑いながら片手を差し出してくる秋司さん。
俺はその手をとり、握手を交わす。
「よろしくお願いいたします」
こうして俺の、三十年で劇的に変化したネット社会への適応を目指して、秋司さんとパーティーを組むこととなったのだ。
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