第十六話 初のダンジョン配信
「きゃっ! 速いっ! すごいっ!」
茜さんの可愛らしい歓声が、俺の腕のなかから上がる。
その様子を全世界に向けて絶賛配信中のラジ夫。
俺は人生初のダンジョン配信で、茜さんをお姫様抱っこしてダンジョンの中を全力疾走していた。
そして、コメント欄がすごいことになっている。
'ボクの茜ちゃんが、あんな冴えない男の腕のなかに'
'絶対56す56す56す56す56す56す56す56す──'
'あんな化け物じみたやつ、どうやって56すのか、それはそれで興味深いな。深層のモンスターがゴミのようじゃないか'
'おい、今、何はね飛ばした見たか! あれ、絶対上位種の竜だったろ'
'ダハハハっ、なにこれ、めっちゃ草なんですけどwww'
'武器、持ってないように見えるな'
'あれじゃね。武器がすぐ壊れる的な'
'それな。というか、全部体当たりで一撃とか'
'体当たり最強説爆誕'
'爆誕してないからwww'
──ああ。これって絶賛、炎上中ってやつだよね。モモちゃんから気をつけてと言われてた状況だよな。どう考えても。どうしてこうなったのー!?
最初は順調だったのだ。
準備万端で挑んだダンジョン配信。配信スキルも習得し、マネジメント側のモモちゃんの尽力で事前告知もしてもらった。
そうして始まったダンジョン配信。茜さんの配信に映り込んで名前が売れていたらしいこともあり、開始時の同接人数は、初めての配信とは思えないぐらいの方に見てもらっていた。
しかし、配信開始してすぐに同接人数が減り始める。
──緊張しすぎて、最初のトーク噛み噛みだったしな……これでこのままじゃダメだと茜さんも思ったんだろう。でも、まさかライブ配信であんなこと言うなんて……
本当は最初の挨拶が終わったらカンストした俺のスキルをいくつか披露する予定だった。
しかし、一流配信者としての茜さんの嗅覚では、あの時の流れだとそれじゃあダメだと判断したみたいだった。
ラジ夫の前に姿を見せた茜さんが、視聴者にむけて突然、「今からリアルタイムアタックします~」と宣言したのだ。
「ゴールは、ダンジョン深層、木村さんがお休みトラップを踏んで三千年捕らわれていた地点ですっ」
一気に盛り上がるコメント欄。
俺は茜さんの、スター性っていうのはこういうものなのかと、そこで再認識してしまう。俺も盛り上がるコメント欄の熱に浮かされた感は否めない。
そして何よりも今はライブ配信中。呆けてないで急がねばと、俺は茜さんを掬い上げるように抱き上げると、全力で走り始めたのだった。
そして、今に至る。
ダンジョンの中を茜さんを抱いて走り抜けること自体は、とても簡単だ。
カンストさせたスキルで道もわかるし、飛び出して来るモンスターも大したことない。当たると汚れそうなのは避け、あとは撥ね飛ばすだけ。
そうして駆け続けることしばらく。
ついにゴールとなる因縁の地──お休みトラップが目の前へと近づいてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます