第五話 初耳

「はい、木村さん。こちらが新しい探索者ライセンスよ」


 霜月さんが差し出してきた探索者ライセンスを手に取る。見慣れない柄だ。

 三千年おやすみトラップから晴れて解放された日の翌日。俺は再びダンジョン管理組合の事務所を訪れていた。

 早速探索者ライセンスの再発行ができたと茜さん経由で霜月さんから連絡があったのだ。

 茜さんいわく異例のスピード再発行らしい。


「やった! これでようやくいろいろ手続きが出来る!」

「よかったですね、八郎さん」


 そんな俺と茜さんの様子を見て、霜月さんがため息をつく。


「はぁ、まったく。ライセンスを良く見てください、木村さん」

「え……おおっ。参級だ! ランクアップしてる!」

「あら、本当ですね。おめでとうございます。でも八郎さんの実力なら、壱級でもいいと思うんですけど」

「秋司壱級探索者。それ、わかって言ってるわよね」


 じとっとした目で茜さんを見る霜月さん。

 俺が不思議そうにしていると茜さんが説明してくれる。


「弐級以上のライセンスは原則、試験やら色々あって霜月さんの一存では、参級が精一杯ってことです」

「秋司壱級探索者。語弊……」

「ああ、なるほど。ありがとうございます、霜月さん。すぐさま発行してくださったばかりか、ライセンスのランクをあげて下さって。きっと、色々とご面倒をお掛けしちゃってますよね……」

「──いえ、木村さんに相応しいのをお渡しすると言いましたから」


 霜月さんからの返事まで、一瞬の間。その間に、茜さんの言葉でより始めていた霜月さんの眉間のシワが消える。


 何にしろ、これでようやく役所での手続きなどが出来るようになる。俺はライセンスを手に、ほっと安堵のため息をつく。


「あ、茜さんも。ご迷惑ばかりかけてしまってましたが、こうして無事にライセンスの再発行がされたので──」

「ご迷惑なんて、全く思ってませんよ?」


 ライセンスが出来たから、今日からはホテルにでも泊まる、と俺が言いかけたところで、茜さんに遮られる。


「あっ! もしかして、八郎さんはゲストルームでは、あまり休めませんでしたか?」

「いやいや! 逆です逆。とても過ごしやすかったですけど……」


 昨日泊めてもらった茜さんの家。ゲストルームに寝かせてもらったのだが、そこはリビングのSFチックな部屋とは異なり、とても居心地の良い部屋だった。なんと備え付けのシャワー室に、装備品保管用の専用ロッカーまであったのだ。


「そうですか。なら、このまましばらくはあの部屋で問題無いですね」


 そういってにっこりと微笑む茜さん。

 その威力に、俺は思わず返事に詰まってしまう。ここで否定するとどうなるのか、短い付き合いながらにわかってしまった。


 そんな俺たちを見ながら、にやにやとした笑みを浮かべる霜月さんと目が合う。


「そのライセンスカード、三十年前に比べると機能が追加せれています。詳しいことは秋司壱級探索者に聞いてくださいね」


 悪びれた様子もなくそう告げる霜月さん。


「……はい」

「さあ、用は済みましたね。行きますよ。八郎さん」


 そういって急に俺の腕を引っ張る茜さん。


「役所での必要な手続きも、さっさと済ませましょう。それで一緒にダンジョン配信をしましょうね!」

「……あれ? 俺、ダンジョン配信するんでしたっけ?」


 そんなことはまったくの初耳だった。


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