第三十六話 脱出
「八郎さん……」
エレベータから出てきたのは、茜さんとももちゃんだった。
驚いたように室内を見回す茜さん。
しかし、つかつかと俺の方へとかけよってくると、俺の右手を茜さんは掴む。
「出ましょう! 今すぐ。ここから」
「え、結果がまだ……そういえば茜さんの方は……」
「私の方は──」
そこで顔を真っ赤にする茜さん。
しかし瞳を潤ませ、上気したままの顔をあげるときっと俺の目を見つめて続ける。
「私の方は終わりました。八郎さんはここにいたら、だめです!」
ぐっとつかんだ腕を引っ張る茜さん。実際のところ、身体強化系のスキルを発動している俺からすると、その力自体は大したものではなかった。
──でも、茜さんがそこまで言うなら……強さの測定の結果は少し気になるけど、まあいいか。
俺はスキルを解除すると茜さんに手を引かれるがままにエレベータに乗り込む。
一緒に乗り込んだももちゃんが素早く閉まるボタンを連打する。
そんな俺たちの動きに気がついたのか、白衣さんや特調のスタッフたちが一群となって迫ってくる。
「まってー」と口々に叫びながらエレベータに向かってくる彼女たちは吹き荒れた暴風で髪や衣服が乱れ、興奮しているのか目はギラギラと輝いている。
そして、ちらりと見えたアケビちゃんは服を半分剥かれた状態で白目を見せて床に横たわっていた。
──ひぇ、ゾンビ映画でみたシチュエーションだ……
伸ばされた白衣さんたち何人もの無数の手が届くぎりぎりで、エレベータが閉まりきり動き出す。
急に静かになるエレベータの中。
俺の右手側にぴたりと寄り添った茜さんの体温だけが伝わってくる。
「……まずは、といったところですね、ももちゃん」
「そうですね、茜ちゃん。でも問題はこのあとです。上にはりおんちゃんと涯無さんがいます。彼女たちは強敵ですよ」
「あのー、茜さん? ももちゃん?」
「──どうしましたか、八郎さん」
ぴたりとくっついたまま、上目遣いで俺の方を見てくる茜さん。しかしどこかその視線に険を感じる。
「くくっ。茜ちゃんは嫉妬してるのさ」
「ももちゃんっ! ちが……わなくはないけど、今、言わなくてもいいですよね!?」
状況がさっぱりわかってない俺に気づいたのか、ももちゃんが簡単に説明してくれる。
「八郎さんが不用意に力を見せてしまわれたので、特調も本気になって八郎さんを籠絡しようとしてくる。それで、茜ちゃんは特調に八郎さんがとられそうで焦ってる、という訳です」
俺はさすがにそんなことは無いだろうと茜さんの方を見ると、顔を真っ赤にして口をパクパクしている。
どうやら本当らしい。
「あーそれでかりんちゃんたちが強敵というのは?」
「もちろん、八郎さんを籠絡してくる相手として、強敵という訳です」
「な、なんにしても! できるだけ急いで外に出るしかないよ!」
気を取り直したようで、茜さんが主張する。
俺はその茜さんの言葉に少し考え込む。
──幸いなことに、特別な魔石とやらのお陰で建物内は魔素がある……
「あー、見つからないで出るだけなら。俺のカンストスキルで、なんとかなるかと思う」
「おお、さすがです」
「本当ですかっ!? 八郎さん」
俺の言葉に、茜さんがなぜかとても嬉しそうだった。
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