第十八話 ポメラニアン
「ポメラニアン……?」
「んー! んー!」
俺は現れたその意外な姿に、思わず呆けてしまう。
──スキルによると、敵意は今のところ感じられない?
ちょこんと大人しく座ったままのポメラニアン。少し首を傾げるようにしてこちらをその場から見てくる姿は、本当にただの子犬のようだ。
'わ、わんちゃん!'
'白ポメか?'
'かわいいーもふもふしてる'
'今来たんんだが、どうなってるんだ。誰か説明プリーズ'
'冴えない探索者木村が、我らが姫君茜タソをお姫様抱っこした深層へRTA。木村が捕まっていたお休みトラップに到着。白ポメ出現'
'なるほどわからん。取りあえず説明サンクス'
'確かに訳わからんな。ありのままでよくまとまっている説明だが'
'説明者は良くやっている。木村がおかしいのが悪い'
'というか茜タソから今すぐはなれろーっ'
'そうだそうだー'
'羨ましすぎるぞー'
「あ、すいませんっ」
俺はばっと手を離す。茜さんの吐息がこぼれる。
「っぁ、──はぁっ、はぁっ……ぅん」
茜さんの息が荒い。俺はあわあわと何て謝るか考えながら少しパニックになる。
「わんっ」
気がつけば、俺たちのすぐ足元にポメラニアンの子犬が来ていた。
──え、いつの間にっ! 全く気配を感じなかった。やはりただの子犬じゃないのか?
「っ! ……かわいいですね、その子」
「わんっ」
息を整えた茜さんも、ポメラニアンの子犬の可愛らしさにやられたように頬を緩め、いとおしそうにその姿を見ている。やはり相変わらず敵意は感じられない。
すると、その場でくるくると回るだすポメラニアン。
次の瞬間、とことこと歩きだす。歩いてはこちらを振り向き止まり、また歩いてはこちらを振り向き止まるを繰り返している。
「くぅーん」
まるで、ついてきてと言わんばかりだ。
俺は思わず茜さんの方を見る。
ちょうどこちらを向いた茜さんと目が合うも、すぐにふっと顔をそらされてしまう。
──え、もしかして怒ってたりします、茜さん? た、確かにちょっとさっきのは強引だったよね。思わず口まで塞いじゃったし。ど、どうしよ……
動揺する俺。そんな俺に、顔をそらしたまま、茜さんが呟く。
「あの、あの子、追いかけて欲しそうですけどどうします? 八郎さんなら対処できそうですか?」
言外に込められた意味を察する。茜さんは、罠や実は敵である可能性を言及しているのだ。
その上で俺は茜さんにこたえる。
「もちろん、何があっても俺はちゃんと茜さんを守り通してみせます。任せて」
俺の返事に顔をそらしたまま、さらにうつむくように下を向く茜さん。
「……はぃ」
俺はそれをポメラニアンを追いかける事への同意だと受けとると、そっと茜さんの手をとり、二人して先行するポメラニアンのあとを追い始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます