◇D.C.~いつもとは少し違う夕景
モブ子さんが転校して1週間が経つ。
もうすぐ、夏休みも終わりだ。
さすがに占い相談室を続ける気力もなかったので、お休みすることにした。もちろん、優羽先輩たちの許可はとってある。
『モブ子さんロス』というのだろうか? どうも調子が悪い。
こういう時は、気分を変えて出かけるのが吉だ。
今日はゆるーい普段着で街を散策するか。そう考えて夕方に家を出る。
ジーンズに無地の白いTシャツ、それから青いベースボールキャップを被った。いつもとは違った地味な格好。まるでモブのように。
電車に乗り、数駅先のターミナル駅に到着する。
わたくしは基本的に人間観察が好きなので、人がたくさんいる場所は気分が高まるのだ。
「こんちわ、今日も暑かったよね。あそこのカフェで喉の渇きを潤さない?」
チャラそうな男が声をかけてくる。こういうウザいのは無視でいいだろう。でもまあ、彼らがどうやってナンパを成功させるかは興味がある。
私はキャップを深く被り、顔があまり見えないようにして駅前ロータリーにあるベンチに腰掛けた。
手にはスマホを持って、何かシャッターチャンスがあればそれに対応できるようにする。夕景の撮影も、そろそろいいだろう。
そこで、しつこい『ナンパ野郎』に声をかけられている女子高生を見かけた。王道ぱっつんな内巻きボブの髪型は、どこかの誰かに似ているかもしれない。
そんな彼女を見て、デジャヴを感じる。正確には、懐かしさだろうか。
「ねぇねぇ、今暇でしょ? ちょっとでいいから俺に付き合ってよ」
「あ、えと、ごめんなさい」
「暇なんでしょ?」
「本当にごめんなさい」
彼女は制服を着ていた。エンジ色のスカートに、白い縁のついた紺のブレザーに、エンジ色のネクタイ。というか、あれ、うちの高校の制服だ。わたくしの記憶にはない子。なので、1年生だろうか?
彼女の困ったような顔を見ているのは、なぜか忍びない。ああいう子は笑っている方がいいのだ。
「しつこい男は嫌われますわよ」
わたくしは、男の前へと立ち塞がる。
「あ? あんた誰だよ」
帽子を叩かれて落としてしまった。わたくしの顔を見た男が「ひゅー」と口笛を吹く。
「……」
「あんたでもいいな。いや、あんたの方がいいな。俺と付き合えよ」
わたくしは帽子を拾うと、ポケットに入っていた、唯一の武器である小型のスプレーを目の前の男に噴射した。
Liquid ASS。クソの匂いのジョークグッズだ。
「うわっ! なんだよ。くせえな」
「ほんと、臭いですわね。近づかないでください」
「え?」
男が、あっけにとられたように固まる。
「早く洗い流さないと、一生クソの匂いが染みこみますわよ」
「このアマ! 覚えてろよ!」
男は焦ったように、駅のトイレへと走って行った。
わたくしは、振り返って助けた女の子の顔を見る。やっぱり、似ているのは雰囲気だけで、そっくりさんではありませんでしたね。
「あ、ありがとうございました」
「あなた、美南高の子かしら?」
「ええ、そうですが」
「わたくしも美南高ですの」
「あ、そうなんですか。私、1年2組のモリハラシキブって言います」
あ、これはちょうどいいかしら?
「わたくしは2年1組の
(了)
――――――――――――――――――
【あとがき】
これにて物語は完結です。
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そよぎ先輩はサイコパスを全力で楽しんでいます! オカノヒカル @lighthill
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