★特別な想いは大禍時に飲みこまれる
あたし、
すれ違いが多いというか、スマホの調子が悪いせいで、彼の大事なメッセージを既読スルーなんて大ポカを何度もやらかしてる。
パパに言って、新しいスマホを買ってもらおうかな? でも、高校入学祝いで買い換えたばかりだから、そんなにすぐは無理だろう。
携帯ショップに修理依頼を出してみたけど「壊れてません」とか返されるし、なんかおかしいんだよね。
ヤンと、もりっちが抜けてから、あたしにばかり不幸が降り注いでくる感じ。
もしかして、あの子ら、なんかあたしに仕掛けてきてるの?
けどなぁ、もりっちには『あの怖い先輩』がバックにいるからなぁ。あんま変なことできないし。
そういう意味では、あの先輩は『ヤンに興味なし』ってのはわかってるから、やりやすいんだよね。
まあ、そんなことより、もうすぐ夏休みだ。篠宮くんとの距離を縮めるために頑張らないと。
篠宮くん、海と山、どっちが好きかな? グループで旅行って、まだやってないし、いい機会だから予定組まないと。
あたしは、旅行の予定を考えながらウキウキ気分で部室へと向かう。だが、運の悪さは直っていない。
途中で、顧問の熊川に会ってしまう。ちょっとオタクっぽいメガネをかけた、30代の教師だ。動画サイトとか、機材に詳しいのはいいけど、教師なのであたしたちには厳しい。
「おい古地目。昨日、校舎裏で動画の撮影しただろ?」
「あ、はい。それが?」
「終わったら掃除しとけよ。紙の花びらとか散乱したままだぞ」
「はーい」
あたしは、従順なふりでやり過ごそうとする。だが、通り過ぎようとしたあたしの腕を先生が掴む。
「返事はいいから、今から掃除をしろ。ほら」
熊川から、竹箒とゴミ袋を渡される。
「えー? あたしだけですか?」
「橋元には伝えとく。皆川と松下は、旅行行ってるんだっけ?」
「……そうですね。センパイたちはいませんね」
「じゃあ、二人でやっとけ」
「えー?!!」
「おまえらが撮影して汚したんだろうが」
掃除用具を押し付けられて、あたしはとぼとぼと校舎裏へと赴く。
アイドルのPVを真似して、桜吹雪まで降らせて歌って踊ったあたしの動画は……再生が二桁っていう情けない結果。
掃除なんかする気分じゃないってのに……。
憂鬱な気分のまま歩みを進めるも、人の声で我に返る。
校舎裏はあまり人が寄りつかない場所。だから撮影場所に選んだし、こういうところに来るのって、誰かを呼び出して告白とか……?
あたしは直前で止まり、校舎の陰から声の主を確認する。
「え?」
そこにいたのは篠宮くんだった。そして、その向かいにいるのは……ヤン?
「ごめん、急に呼び出して」
篠宮くんがそう切り出す。
「えっと、なんでしょう?」
相変わらずヤンは、無表情に篠宮くんを見る。彼女が彼に興味がないのは知っている。
「ははは、他人行儀な感じだな。ちょっと前まで友達だったのに」
「そうですか。でも今は違いますよね」
「きみをグループから追い出したのには、俺も反対だったんだ」
「今さら戻れませんよ。というか、コマが許すはずないじゃないですか」
「うん、そうだよね」
「それで、用はなんですか?」
「あのな、俺もあのグループを抜けようと思うんだ」
え?
なんで?
「それがどうしたんですか?」
「俺は……その、古地目なんかよりおまえの方が……」
「はい?」
「俺は、おまえのことが好きなんだよ」
あたしは、その衝撃的な告白を聞き、身体から力が抜けてしまう。そして、そのまま膝から崩れ落ちた。
「あー、そういう話ですか。結構です。いえ、はっきり言った方がいいですね。お断りします」
「あ……そうだよな。やっぱ俺のことも恨んでるよな。
「いえ、それはどうでもいいです」
「違うのか?」
「うーん、そうですね。篠宮くん。わたしは、あなたにはまったく興味がないんです」
「……あはは、そうか。なんかヤンらしいな」
「話は終わりですか?」
「ああ、ごめんな。時間取らせて」
「では」
「でも、俺、諦めないからな」
篠宮くんのその台詞は、あたしの中の何かを壊す決定打となる。
「勝手にすれば」
そして、ヤンはなんの悪気もなく去って行った。その姿に憎悪する。
篠宮くんが『グループを抜けたい』と言ったのも、ヤンが原因。篠宮くんの好意を無下にしたのもヤン。篠宮くんは、ヤンに心を囚われている。
あの子のせいで、あたしの旅行の計画もめちゃくちゃだ。
あの子さえいなければ、今頃あたしは篠宮くんとうまくいってたのに……。
ふざけないでよ!
絶対に許さないんだから!
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