第8話

「そーれーに!レイドワークの一族は、独立の為に動いていたんでしょう?」

「マユ……やっぱり知ってたのね……」

「精霊の情報を侮ってはいけません!」


 だから精霊怖い……。

 そんな私たちのやり取りを聞き。


「レイドワーク領土が独立?それって民が王都からレイドワーク領土へ移動してこないか?広さ的に受け入れは可能なのか?」

「食料問題も出てくるだろうな。幸いなことにレイドワーク領土はアズール国と我が国の境目だ……何か支援できることはないか?」


 竜王様やディル様も真剣に考えてくれるようだ。

 ありがたい。


 そう、私たち一家は、マユから情報を貰い、追放されることを視野にいれて領土を独立させる計画をたてていたのだ。

 民意がこちらにあるとかで、無理やり下された王命での婚約なのに、あの扱い。

 最初から雑で、挙句心変わりの冤罪追放だ。

 止める側近も居なければ、王も止めない。

 国の中枢にいる人物が、揃いも揃って先が読めない上に物事を理解する頭がないのだ。


 ――見放す理由しかない――







 マユから貰った情報を元に、私が追放されたあとは私のことは自分で何とか逃げることを前提にし、両親や兄達は王家に捕まる前に領地へと逃げる計画になっていた。

 何かと利用されるつもりもないし、何より領地民の生活を守ることを最優先に考えたのだ。

 まさか迷いの森に縛られて捨てられた挙句、馬車に火を放つという徹底ぶりだったわけだけれど。

 ……生きてて良かった。


「レイドワークの人たちに協力を求めて、私の平凡で穏やかかつ自由で幸せな生活を手に入れるために頑張ろうよ!」

「いや、愛し子である限り、ある程度の束縛は必要だと思うし、知識も必要となるだろうが」

「だから!自由に学んで、自由に人と話すという、平凡かつ穏やかな幸せと自由が欲しい!」


 竜王様が少し嗜めるように言った後、返ってきたマユの言葉に目を見開いた。


「…………アズール国で一体どんな生活を………………?」


 想像もつかないのか、何とか言葉を出した竜王様に対し、マユは鬱憤をはらすかのように今までの対応を息つく間もなく話し出したので、私は昼食……というより簡単につまめる軽食の用意を頼む。

 そろそろお昼の時間になるのだ。

 きっと今を逃すと夕食の時間までノンストップになりそうなほど、マユの苦悩が溜まっているのは知っている。





 ◇




「っというわけで!人間の尊厳はなく、ペットのような扱いでした!私の意思はそこにない!」


 竜王様とディル様は額に手をあてう項垂れている。

 サンドイッチをつまみながら話を聞いていたが、途中から呆然となった後、項垂れたままの状態となりマユの話は終わった。


「人間とは……ここまで言葉が通じないのか?」

「人間はいつの間にそこまで退化したんだ」

「人間と一緒にしないでください」

「すいません、人間にもペットにも失礼でした。あれは塵芥です。」


 竜王様とディル様の呟きに、私とマユが返事をする。


「なるほどなぁ……保護すると言っても、話し合いの解決はまず無理だろう。レイドワークの領地が独立するというのならば、そこも含め植民地化した方が良さそうだな」


 そう竜王様が呟いた時、ふと気になったことがあり問いかけた。


「そういえばアズール国の成り立ちから、精霊が多く住むとのことですが、その事に関しては問題が起きることはないのでしょうか?」


 精霊が見える訳でもないし、実際精霊によりどんな状態になろうと人間である私には想像もつかない。


「大丈夫だろう。そもそも、もうあちらの王族に民衆は着いて行かない。勝手に廃れていく。そこを狙うだけで戦争を起こす気もこちらにはない。向こうが起こそうと言うならレイドワーク領土になるだろうしな。」

「必要であれば精霊達には避難するよう私が言うよ~!」

「愛し子マユ、感謝する」

「……その愛し子マユって呼び方、なんとかならない?」


 不機嫌丸出しの表情をしたマユに戸惑うが、マユ自身が異世界で様付けされるような生活ではなかったことで、礼儀作法が苦手な竜王様は喜んでマユと呼ぶようになったのを横目に、ディル様は盛大なため息を吐いていた。








 1日かけてルフィル国に来たマユは、元気そうに見えても疲れていたらしく、部屋とお風呂の準備が出来たと聞くと、寝ると言って部屋へ下がっていった。


「アリシアは大丈夫?」

「私も少し部屋で休ませていただいて宜しいでしょうか」

「わかった。レイは溜まった書類の整理な」

「え!?」


 ディル様の気遣いに便乗し、私も部屋で休むことにした。

 退室する部屋からは竜王様の小さい悲鳴も聞こえるが、多分……いや確実に書類仕事が苦手なのだろう。

 なんか想像できる。うん。

 脳筋は脳筋……思わず家族の事を思い出す。

 優秀な執事が居なければ、きっと書類は見ることなく燃やされていただろうし、そのため仕事も回ることはなかっただろう……。

 そんな事を考えながら、ソファに深く腰掛け、背もたれにもたれてゆっくりしていると、そのまま意識が薄れていく。

 思った以上に疲れていたのだろう。




 ◇





 窓から明るい日差しと共に、鳥のさえずりが聞こえる。

 うっすらと覚醒しつつある意識から目を開けようとするも、光の眩しさから少しだけ瞼を開く。

 どうやら、あれからぐっすり休んだようで、今は朝のようだ。

 起き上がり、テーブルの上にある水差しから水を入れて口に含む。

 ここ獣人の国では侍女や執事と言ったものの仕事は多岐に渡る上、自分の身の回りのことは自分でやる風習がある為、人間と違って朝から起床の声かけや着替えの手伝いなどしないようなのだ。

 正直、座っていれば周りが勝手に仕上げてくれるという人形極まりない待遇は苦手だし、マユもこの国の待遇は最高!って両手をあげて喜びそうだな、と思う。


「アリシア!おはよう~!」

「おはよう、マユ」


 朝食の席に行くと、すでにマユが座っていて満面の笑みで迎えてくれた。

 竜王様とディル様はまだのようだ。

 仕事をするより朝食を食べに来そうな竜王様なのだが、どうしたのだろうと少しは思うけれど、気にしないことにして食事を持ってきてもらうよう近くにいた者に頼む。


「自由……自由いい!自由だ!!!!!」


 何かを噛み締めて感動しているマユ……。

 うん……むしろここは自由すぎる気がしないでもないが、マユが元居た世界を思えば、貴族世界の生活なんて束縛しかなかったのだろう。

 そこへ加えて…………うん。なんとも言えない。

 人目も気にすることなくリラックスした様子で食事をするマユを微笑ましく思っていると、ふいに外の騒がしさに気がつく。


「アリシア!ちょっと良いか!」


 騒々しく扉を開けた竜王様に眉をひそめた瞬間、綺麗な回し蹴りが竜王様の顔に入る。

 が、そこで少しふんばる程度で終わったのは獣人ならではの身体なのだろうか、回し蹴りをきめただろう人の舌打ちらしきものが聞こえる。

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